日本で河合楽器の書籍コーナーで「蜜蜂と遠雷」を見つけた時に、青柳いづみこさんの『ピアニストは指先で考える』という文庫本を買った。

30代の女性のピアノレスナーが想定読者だったらしい。
ピアノレスナーという和製英語らしいものの存在すら知らなかった。
私もこの30年以上ピアノやギターを自宅で教えているから、ピアノレスナーの端くれで、なかなかおもしろかった。
コンクールについては、「蜜蜂と遠雷」のことも思い出したし、コンサートやレコーディングや室内楽のことなど、「あるある」というエピソードが満載で楽しかった。プログラムとアンコール曲の関係とか、リハーサルとか、集中力の話とか、実感がこもっている。フィギュアスケートとの比較なども興味深い。
指の角度や手首についての詳しい分析やストレッチ法などを読むと、半世紀以上ギターを弾いているおかげか、年齢を重ねても柔軟性など衰えていないのを確認できて安心した面もある。
でも、一番印象的だったのは、日本でこれだけピアノ人口が多く、優秀なピアニストもたくさんいるのに、有名なコンクールに入賞するとかメディアに取り上げられるなどで知名度がなければ、演奏家としての生計がたてられないという現実だ。
他のクラシック演奏家も同じで、プロオーケストラの常任メンバーとして生きていける人など極めて少ないだろう。フランスの方がアグレガシオンをはじめとしてさまざまな国家資格があるし、コンサートを開く敷居も日本よりは低そうだ。
どこかでコンサートがあると、「普通の人」がふらりと来てくれる可能性は高い。
日本では、自主公演でチケット販売ノルマがあるなど普通だという。
スター演奏家や海外から来る演奏家でないと、一般客がふらりとコンサートに来てくれる率はずっと少なそうだ。
これはバレエも同じだ。
時々 TheBalletshow というyoutubeを視聴している。主宰者のダンサー夫婦がとてもすてきで好感が持てるし、ピアノと同じで、私にとってクラシックバレエはやはり幼児からの原風景に組み込まれているからだ。
で、そのyoutubeは、バレエを広める、観客の層を広げるというのが目的だ。日本では、幼少期からバレエを習う少女がたくさんいて、トップレベルのバレリーナもいるのに、日本ではプロのバレリーナとしてはとても生活できないので海外のバレエ団に所属する人も少なくない。
ピアニストもバレリーナも、層の広さ、質の高さ、は十分なのに、それだけでは「食べていけない」というのが現実なのだ。
皮肉なことに、日本ではバレエもピアノも、その道を究めようと志すと膨大な経費が必要だ。その資力のある家庭の子女だから、ある意味、最初から、「バレエやピアノで食べていく」という展望を必要としていないのかもしれない。
フランスだと5歳から公立のコンセルヴァトワールに入ることができて授業料は家庭の収入によって決まり、ソルフェージュ、楽器、コーラスと三つを並行して学べるし室内楽やオーケストラにも参加できる。音楽院や公立のホールで演奏する機会も与えられる。バレエの場合はロシアや旧ソ連邦の国などもっと丸抱えの英才教育も普通にありそうだ。
うーん、バレエもピアノも日本人にとっては「外来」のものだからということだけではなさそうだ。かといって日本の伝統芸能の世界には「家元制」などもあって、ある意味でもっとハードルが高いかもしれない。
青柳いづみ子さんの本を読んだのはこれが初めてではない。
現役ピアニストの目で(いや、「指で」?)、これだけ演奏や演奏家、作曲家、音楽界のあれこれを詳しく書いてくれる人がいる幸運に感謝するばかりだ。