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L'art de croire             竹下節子ブログ

「がり勉」に憧れる

この頃「怠ける時間」が少し減った。
あるビデオを視聴して、ブルガリアの物理教師のテオドジ・テオドジエフ(Teodosi Teodosiev)という人が数学や物理の英才教育をして、中学生高校生が無料で参加できる研修では日に15時間も勉強させているというのを見たからだ。
教室で夜11時まで教えている。AIより頭がいいことを証明しなくてはならない、と生徒たちに気合を入れている。
彼の教えを受けた生徒はさまざまな国際コンクールに入賞し、ノーベル賞をとった人もいる。たいていは、ブルガリアからイギリスやアメリカに渡って研究生活を送るわけだけれど、テオドジを恩師として尊敬している。

テオドジは76歳になるけれど、若者の数学や物理の能力を高めようと、無償で働き、私財を投じても学校をつくろうとしている。「妻に知られたら殺される」とジョークを言っていたところを見ると、アスペルガー気味の「変人」ではなくて、物理教育への熱意以外は「普通の人」のような印象だ。
特別研修のクラスに女子が多いのを嘆くので、男尊女卑かと思ったら、女子がいると男子が気が散って集中しないから最高のパフォーマンスを引き出せないからだという。
なんだか実感がこもっている。
確かに、若い男女が生活やクラスを共にすると、男子の方が女子の存在に惹かれるというのが分かる。それがハンディになることもあるだろう。

それにしても、今の時代、黒板をひたすら数式で埋めていくこういう授業風景にノスタルジーをそそられたし、日に15時間勉強しろ、というのもなぜか気に入った。「そうだ、私もだらだらしていないで、書斎に入ればすぐに本を読んだり仕事したりしよう」、と思った。
私にはいわゆる「がり勉」の経験がない。

暗譜演奏の能力も、バレエの振り付けを覚える能力も、ぎりぎり「普通」だと自覚していたけれど、いわゆる学校の勉強に必要な記憶力はよかったので、予習も復習もせずノートをとることすらしなかった。試験の前日にも関係のない本をつい読んでしまっていたし、宿題もしたくなかった。夏休みの最終日に宿題ができていないで、やる気もなく、母が漢字を続けて五行書くとか、い合わせた叔母が分数の計算問題をやってくれたりしたのを覚えている。
成績はよかったので、さぞや「がり勉」しているだろうとクラスメートから思われていたこともある。実際はお稽古ごとのない時はうちではひたすらマンガを描いていた。
それでも、いわゆる学習雑誌で、試験前一週間の勉強の時間割を自分でくわしく作る、という特集を見て憧れたことがある。十五分単位で規則正しく自分を拘束するような表を作ることに憧れたのだ。
自分は怠けていたけれど、絶えず努力して一歩ずつ進む人の伝記などを読んで憧れていた。私にとって「努力して何とか完成する」という体験は、ピアノの発表会の前だとか、今やっているヴィオラだとか、「才能がない」分野だけだ。でも世の中には、才能もあって、地道で絶え間ない努力もして、目標を達成するというすばらしい人たちがたくさんいる。でもそれはいつも「憧れ」でしかなかった。

今、テオドジのドキュメンタリーを見て、すぐに「やはり机に向かってやるべきことをやる」のが王道だなあとすなおに思ってすぐに(三日坊主かもしれないけれど)日常に反映したのはなぜだろう。なんの共通点もない人だけれどやはり「年齢」だろうか。テオドジの体力、気力、知力はそれだけで常人ではないし、恵まれた遺伝子も持っているのだろう。世の中の政治家には、高齢になっても、ますます自己顕示の欲望全開の人が多々いるけれど、テオドジは、ブルガリアのようなマイナーな国に留まって、ひたすら「後進」のために、自分の知識を伝達し続けて、私費さえ投じている。AIに勝つとして自分のレベルも更新し続けているし、それが若者に伝わって成果も出している。自分の使命が終ってもそれがずっと続くようにと具体的なプランにとりかかってもいる。
そう、「使命感」があるのだ。そして、レベルアップするには、机に向かう時間に妥協しない「がり勉」が必要だと明言し、生徒たちにぴったり寄り添う。「しごき」などではなく、単なる英才教育でもなく、自分の生きざまを分け合っているのだ。
今の世の中では「ゆとり教育」だとか、コンプライアンスとかで阻まれてしまう。

今は「高齢者」も元気だけれど、いつまでも歩けるようにとか、いつまでも美しい肌だとか、ひとりひとりに的を絞ったマーケティングの言葉ばかりで、他の人よりも元気、若さを保つ、などの成果を提供する感じのものばかりだ。毎日ウォーキングしたり筋トレしたりを続ければ今日も昨日と同じく元気でいられる、継続は力なり、と言われても、自分の体や心だけがターゲットであれば、少なくとも私には続かない。

「1日15時間勉強しろ」というテオドジの「がり勉」実践の呼びかけは私の心に響いた。次世代との関係性において自分の信じることを無視の心で伝授する姿に感動したのだ。残された時間を無駄にしないようにしたい。

(私は無駄な誘惑に簡単にはまってしまうタイプなので、ゲームやネトフリドラマなどは最初からかかわらないようにしているけれど、うまくできている無駄なビデオにはまってしまうことはよくあって、後悔することが多々ある。)

このYoutubeは2027/1/7まで視聴できます。

by mariastella | 2026-02-03 00:05 | 人生観
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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