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L'art de croire             竹下節子ブログ

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展 その1

去年からやっていたジョルジュ・ド・ラ・トゥール展をようやく観に行く。
ジャクマール・アンドレ美術館にぴったりだ。

切符を持っている人と持っていない人に別れて列があり、寒いのにけっこう人が並んでいた。英語が圧倒的に多く聞こえてくる。観光客なのだろう。でもルーブルとかでなくジャクマール・アンドレに並んでまで来るのって、情報が行き渡っている時代なのをあらためて感じる。
ここに来たのは久しぶりだ。新鮮だった。
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何となく気になったこの像。「とげを抜く女」ジャン=バチスト・ピガールの1780年頃の作とある。
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アンリ四世の胸像がとてもリアル。1610年頃。1610年5月に暗殺されているが、その前に注文されたのか、その直後のものか。アンリ四世は肖像画でも鼻の形など特徴的なのだが、この表情はなんだか彼の生きた激動の時代が凝縮されているように見える。
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「冬の庭」と呼ばれる採光のよい場所。
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階段の踊場にある巨大なゴブラン織り「十字架を追わされるイエス」のシーンは、織り方が立体的になっていて、見る角度によって涙を流すイエスの顔が違って見える。
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ラ・トゥール展への入り口。左は赤子イエスを見つめる(乳母だか聖アンナか)女性と、イエスの残した生の意味を考えながら改悛の時を過ごしているマグダラのマリア。
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ラ・トゥールの作品は、ルーブルでも観るし、昔の回顧展にも行ったし、大きな写真も長く書斎に貼っていたし、その静けさに吸い込まれるような気分をいつも味わっている。
私は例えばロダンとブルデルならブルデルの方が「好み」なのに、ラ・トゥールとカラバッジョなら、なぜかラ・トゥールの方が好きだ。
展覧会のタイトルは「影と光の間で」というのだが、私のイメージでは、影と光とか闇と光とかいうより、「夜」と「灯り」、しかも室内の親密な空間での灯り、だ。

ラ・トゥールの知られている最も初期の作品は初めて見た。
男と女(老夫婦という感じ)が対になっているもので、女に叱責されてたじたじとなっている男、という構図。表情に含蓄がある。まだ「灯り」の世界はない。
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これも、妻に責められている(嘲られている)ヨブの哀れな表情が悲痛だ。妻は蝋燭を持っていて、夫の痩せた体を照らしている。
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老人が描かれている絵ではすべて、その表情が人生の全てを凝縮して語っているようで、「静謐に閉じ込められた壮絶」にどきりとする。
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これはラ・トゥール自身によるものかはっきりしないのだが聖ヒエロニムス。
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聖ペトロの涙。
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次のヒエロ二ムスの贖罪シーンは、二つのヴァージョンがある。一つ目はグルノーブルにあり、二つ目はストックホルムにある。二つ目はストックホルムの枢機卿から依頼されたものであるらしく、枢機卿の赤い帽子が配されている。

一つ目は、洞窟の中のようで、自分を打つ鞭に血がついている。
ヒエロニムスが荒野で隠遁したのは若い頃で、さまざまな誘惑と戦ったというのは
で有名だ。ここでは、老人の姿で、髑髏にたてかけられた聖書は彼が聖書のラテン語訳をしたことを示している。
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二つ目は、独房内で、枢機卿の帽子と共に赤が効いている。
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なぜか気になったのは、一作目より枢機卿のために描いた二作目の方が、ヒエロニムスの体の幅が広くてがっしりしているように見えることだ。

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「荒野で隠遁」のテーマというのはヒエロニムス・ボッシュの『聖アントニウスの誘惑』を思い出すが、聖ヒエロニムスの方は、「誘惑」より「自罰」の沈潜のイメージ。
(余談だが、ヒエロニムスはフランス語でジェローム。ステファノとエチエンヌが同じ聖人(12使徒の1人で最初の殉教者)の名とは思えない暗い印象が違う。)
カラヴァッジョももちろんヒエロニムスを描いている。でも、赤いマントの質感が革のようだったり、机に向かってものを書いているという図柄が多い。
ラ・トゥールは長い間忘れられていて、20世紀に「再発見」されたのだけれど、生前は「人気画家」であったようで、ヨーロッパ各地からの依頼を受け、300点は描いたと思われるのに、今認定されているのはわずか40点ほどだ。その半数をここで見ることができて新たな発見があった。

蠟燭の炎がはっきり描かれているのと隠されているものがある。
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手前の人の腕で隠れている燭台。
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マグダラのマリアの燭台は髑髏の後ろに隠れている。
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矢で射られた聖セバスチャンの体から矢を抜く聖女イレーヌ。
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この別のテーマ、複数のヴァージョンが残っていて別の構図のものあるが、私はこれが一番気に入っている。蝋燭はランタンの中にあり、イレーヌ(彼女も後に殉教)の表情が、あまりにも静謐で、ドラマティックではない。場面の選び方も煽情的ではない。そう、同じように光と闇で劇的な効果を出すカラヴァッジョに比べて、ラ・トゥールの「洗練」はバロック時代のフレンチ・エレガンスに通じるのだ。

セバスチャンをテーマにした絵画 (ラ・トゥールの別ヴァージョンも載っています)

(続く)


















光というより灯り、灯りに照らされているというより愛撫されているという感じ。

by mariastella | 2026-02-18 00:05 | アート
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