今年は、カレム(復活祭前の四旬節)とイスラムのラマダンと中国や東南アジア系共同体の新年がほぼ同時にやってきた。
旧正月が近づくと、中華やベトナムの総菜屋さんはいつも派手な飾りでセールをするし、大手スーパーも中国の新年と称して中華総菜や調味料などを大売り出し、となるし、シャンゼリゼを龍の模型が練り歩くことすらあったのに、今年はいたって静かだった。バレンタインデーでもあった直前の週末にようやく中華食品のコーナーができて「中国の正月」ではなく「太陰暦の新年」とだけ書いてあった。
その代わりに、一斉にデーツなど、昼間断食のラマダンの夕食に並ぶ食品のコーナーが広がっていく。
復活祭は4月初めだからさすがにまだイースターの卵型チョコレートなどは並んでいない。イースターはクリスマスと並んでフランスで最もチョコレートが売れる期間だ。
復活祭前の四旬節は修道院などでは今もパンと水が中心の食事(日曜は別)が守られるなどするようだが、「信者」に求められるのは四旬」最初の「灰の水曜日」と最後の「聖金曜日」だけだ。肉食はだめでも「断食」は求められないし、ラマダンのように日中は水も飲めないということもない。
フランスでは、今時の若いムスリムはラマダンを熱心に実践するのだという。
それにしても、2/17,18日に旧正月、ラマダン、カレムが一斉に来たことで、フランスのライシテやら宗教帰属事情と消費経済における宣伝戦略の微妙なバランスが観察できて興味深かった。
カレムに先立つローマ教皇の言葉は印象的だった。就任2年目に入るのに、ヨハネ=パウロ二世以来の教皇と違って今年はアメリカを訪問しないと発表したアメリカ人教皇だ。彼はカレムの期間を単なる食事の節制やら告解やら慈善などではなく、この期間、他の人(他の国や他の政党なども含む)を傷つけるような言葉を口に出さないという節制をするよう呼びかけた。
なるほどと思った。
今の世界情勢、社会情勢、さまざまな独裁者、自分勝手な権力者がいたり、理不尽なことがあちこちで起こっていたりするので、いろんなことに「怒り」を覚えることが多い。それをそのまま口にしたり、SNSで拡散したりする人はたくさんいる。
それを見るとますます怒りがエスカレートすることもあるし、攻撃の言葉を口にしたくなる。その気持ちを抑えることは簡単でないかもしれないけれど、口にしてはいけない。口にすれば解決から遠のく。
市井の人が天下国家の悪口を言ったところでなんの実害もないだろうし、仲間うちで誰かをこき下ろしたり批判したりするとすっきりすることもあるかもしれない。
でも、せめてカレムの間だけでも、意識して、誰かの耳に入ればその人を傷つけるような言葉を口にしないようにできるだろうか。
意外と難しい。犯罪者もいれば戦争で街や人を攻撃して絶滅させることさえ厭わない政治家や権力者もいる。抑圧されたり収奪されたりしている犠牲者に寄り添い解決策を練ることも必要だろう。けれども、とりあえずは、攻撃的な言葉を口にしないで封印しよう。
それは怒りの否定や解消ではないけれど、ネガティヴな言葉を外に出さないことで客観的や相対的に見ることができるかもしれないし、怒っている自分と距離を置くことで、ある種の平穏を得ることができるかもしれない。
身近にいる人に対しても、ついネガティヴな言葉をかけてしまうことを抑制するのは大切なことだとあらためて思う。カレムの目標、実践しよう。