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L'art de croire             竹下節子ブログ

レオ14世とアメリカのカトリックとピーター・ティール

アメリカのカトリックにはいわゆる右派と左派の二つの流れがあり、この10 年間で対立を深めた。バイデン前大統領がカトリックであったこととも関係する。


ひとつはプロライフというやつで、中絶禁止や同性婚反対など倫理的な保守派であり、もう一つがキリスト教社会主義で貧困対策など社会政策を優先するリベラルだ。(経済政策においてはリベラルである保守派もいる。)

レオ14世はこの二派が協力しなくてはならないと司教たちに呼びかけている。


カトリックの社会ドクトリンによると、「力」は政府の行使する最後の手段でなくてはならない。

それに対してトランプ大統領は先制攻撃が最高の戦略だとちらつかせている。トランプは自分のことをキリスト教擁護者だと言っているので、アメリカのプロテスタントもカトリックもトランプに染まってしまった部分がある。


教皇は司教たちが話し合うシノドスの精神を鼓舞し、実際、アメリカの司教たちは202511月にICEを弾劾している。メディアでは「保守」とされている米軍付司祭の長であるブログリオ司教はアウグスティヌスを引用し、1/18に、グリーンランドでの軍事侵攻がある場合、兵士は命令の良心的拒否の権利があると語った。次の日にフランシスコ教皇派(リベラル)の3人の司教も、政府はモラルの磁針を再び正すようにと呼びかけた。


20世紀のスペインの内戦で、フランコ軍がマヨルカ島で反対派を大量に殺害したのを目撃したフランス人ベルナノスが『月下の大墓地』でカトリック右派を批判した歴史も想起されるようになった。ベルナノスははじめ右派のアクション・フランセーズに属していたが、フランコ軍による殺戮をカトリック教会が容認していることに衝撃を受けたのだ。

トランプ大統領の政策を牽引するのは宗教ではなくてビジネスだ。


それをよく表現しているのがピーター・ティールだ。彼は生成AIも含めたTECビジネスの大富豪で第一次トランプ政権の立役者でもあった。ドイツで生まれ、1歳でアメリカに渡り、カトリックに近かったという話もあるが、福音派の洗礼を受け、そこからも離れて,自分では小文字で始まる正教(orthodox)だと言っているらしい。同性婚をしているので保守カトリックと相容れないのはもちろんだが、「キリスト教」アイデンティティは確固としている。

彼の信ずるところはハルマゲドンとカテコンで、キリストの再臨の前にハルマゲドンがあり、偽キリストであるアンテクリストがすでに現れているとさまざまな機会に警告している。

2026/1/26、なんとフランスの道徳政治科学アカデミーに招かれて講演した時の彼の話は次のようなものだった。


AIを筆頭とした現在の技術革命は精神的な救済のための手段であり、その預言はヨハネの黙示録の中に見出される。世界平和を願うことは「反キリストを語る」ことに通じ、人工知能の無制限な発展の危険性を警告する研究者こそが「反キリストの兵士」である。


これに対するフランスの左派カトリックの反応はこうだ。


二千年もの間、偽預言者が現れ、信仰の言葉を奪い取ると我々は警告されてきた。ティールは偽予言者の1人であり、彼のイデオロギーはSFと偽造神学の混合物である。ティールによる聖書の引用はグロテスクだが、現代人の大多数がもはやキリスト教を知らないことを考えると不安に駆られる。

AIの問題はカトリック教徒にとって関心事ではあるが、ティールのような形の関心ではない。現在、前例のないスピードで発展しているAIは、映画『2001年宇宙の旅』のように、人類に対して敵対的な反応を示す可能性があるが、ティールがこの点を無視するのは明らかで、彼の歴史的・神学的な発言が彼自身の経済的利益を根拠としているからだ。


フランス学士院に彼を招待したのは、右派カトリック・ブルジョワジーであるシャンタル・デルソル女史だった。

ティールの講演の2日前、124日の第60回世界社会コミュニケーションデーのメッセージの中で、教皇レオ14世は、人口知能を「神託」と見なすような「単純で無批判な信頼」に対して警告を発し、「こうしたことはすべて、分析的かつ創造的に思考し、意味を理解する私たちの能力を弱めてしまう可能性がある」と指摘した。

教皇は、「私たちはAIに操られることなく、AIを使う方法を学ばなければなりません。デジタル詐欺、ネットいじめ、改ざんされた動画を避けるために、自分のイメージ、顔、そして声を守らなければなりません。アルゴリズムが私たちの現実認識をどのように形作るのか、AIがどのようにバイアスをかけられるのか、そして私たちの情報の流れを毒するメカニズムを理解しなければなりません。そして、AIの背後に隠された金銭的利益について知らなければなりません」と締めくくった。


教皇と偽善者は真っ向から対立しているのだ。


謙虚で穏やかだが実は怖いものなしのレオ14世の言葉をじっくり考えたい。


by mariastella | 2026-03-07 00:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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