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L'art de croire             竹下節子ブログ

内田樹『そのうちなんとかなるだろう』

不思議な出会いから、内田樹さんの『そのうちなんとかなるだろう』という新書を読むことになった。内田さんと言えば、このブログでも何度か触れている。共感もしながら違和感もあった、という感じだ。


で、今回、この回顧録風の本を読んで、彼の半生を知って、おお、なるほどと思うところがあった。

いつも軽妙な語り口で「器用な人」、武道とか能だとか、マルチな文化人というイメージだったけれど、回顧録を読むと「同時代性」を感じた。


いろいろ思うところがあるけれど、まず、1970年の駒場の思い出が一気に蘇った。


内田さんは日比谷高校出身で、1969年が学園闘争のため東大入試中止だったので1年遅れで東大に入ったというのは、中沢新一くんと同じだなあとは漠然と知っていたけれど、高校中退で駿台予備校に通っていたなど、なかなか破格の人だ。だから私と接点などないと思っていたけれど、1970年に駒場で文Ⅲにいたのだから、完全に同時期だ。彼は第二外国語がフランス語クラスで文学部のフランス文学科に進み、私は第二外国語がドイツ語クラスで、そのまま駒場の教養学科フランス語フランス文化に進んだから、同じクラス、ということはない。

この本で一番驚いたのは当時の駒場寮の話だ。私の高校の同級生で大学でも同級生になった後のドイツ文学研究者が駒場寮にいて、バイトに明け暮れる暮らしをしていたのは知っていた。クラスで仲良くなった学生はSF研で駒場寮にいた。内田さんが言うには当時のSFというのは、若者にとってけっこうアバンギャルドなエリート意識を持てるところだったらしい。私も内田さんと同じように中学の時からSFマガジンをずっと読んでいたので、SF研の学生にリスペクトしてもらえたのを覚えている。(その人は、灘高出身でやはり、一年上、東大入試が再開するまで駿台予備校に通った1年が一番自由で楽しかったと言っていた。)


1970年の駒場はまだ全共闘やら中核、革マル、民青、べ平連などの活動家が新入生の「オルグ」に熱心だった。前年入試中止にまで追い込まれてその存在意義を問われた東大に1970年にのこのこと入学したのだから罪悪感を抱いている学生も多く、学生としてのありかたの模索をしている人が多かった。一年間のブランクのせいで、通常の二年生というのはいないから、教養学部に残っているのは留年した活動家などが多かった。

その年の「新入生」は、圧倒的に一浪が多く、二浪、三浪もいた。現役学生は怖れをなして敬遠したのか、地味な感じだった。女子学生も3000人中100数名という少なさだった。でも女子学生の場合は優秀な成績なら「一浪」までして東大にこだわることは少ないので、ほとんどが「現役」合格の人だった。中には東京藝大と東大と両方合格したという人ともいた。まじめな優等生タイプの女子学生と、トンボ眼鏡にベルボトムとか、ミニスカートとか、自由でエキセントリックな女子学生の両方がいたと思う。

私は、その年また入試が中止になるなら外国の大学に進学しようと思っていた。受験勉強もしたことがなかったし、駒場の授業もすでにいろいろと兄から教えてもらっていたので新鮮味もなかった。

兄は駒場の教養学科の科学史科学哲学の4年だったので、キャンパスで会うことも多く、背の高い兄と腕を組んで連れ立って歩いたりしていたので目立っていたと思う。兄はその頃車で通学していたので、学内で兄の車に乗り込むこともあった。

三浪の人でも兄と同じ年なので、私には心理的なハードルが何もなかった。同級生から「君のような人ははじめて見た、僕の母親や姉たちとはまったく違う」などとわざわざ言われたこともある。


立て看、ガリ版刷りのアジビラ、新入生の授業を中断しに来る活動家グループ、内田さんと同じ空気の中で生きてきた。内田さんの回顧録にはお兄さんからいろいろな音楽を聴かされたり、いろいろなことを教えられたりしたとある。そこのところは私とそっくりだ。では、二つ上のお兄さんは1970年に駒場で内田さんと会わなかったのだろうか(内田さんは高校中退して家を出た時期があった)。なんだか気になって検索してみると、お兄さんは早稲田大学を中退してお父さまの会社に入ったのだそうだ(その後、企業して成功したけれどギャンブル依存症だったという)。なるほど。

内田さんの(私から見ると)波乱万丈な生き方と比べると、私は実に平凡にやってきたわけだ(私の兄は東大卒業後、波乱万丈の生き方をすることになったけれど)。

結果的に内田さんとの共通点はあまりないけれど、芸事が好きで、教えるのも教えられるのも好きで、何十年もある種の「修行(私の場合は楽器)」をしてきたことで親近感は覚えるし、1970 年の駒場のことを懐かしく思いださせてくれる本だった。(続く)


by mariastella | 2026-06-17 00:05 |
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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