カトとソシアル
夕べはリーマン・ブラザーズの倒産のニュースのせいで、大騒ぎだった。大手保険会社(AIGではない)重役の親戚がちょうどうちに泊ってたからだ。彼らの1人息子(私の甥)の親友がロンドンのリーマン・ブラザーズで働き始めたところで、彼らの姪の1人もドバイのAIGで働いているからだ。
といっても、みんな独身だし、もともと実家に金がある上に本人たちも国際的に高学歴の連中だから、別に困らないんじゃない? と私が言ったので「危機感を共有しないやつ」って感じで見られた。 少なくともイスラム系の金融機関にはサブプライム危機はないと読んだことがある。金が金を生んではいけないというコーランの原則が生きていて、現物経済にしか投資しないし、無理なローンを組むというメンタリティもないのだそうだ。 カトリックも元はそれが生きてたときいている。だから、ユダヤやプロテスタント資本に太刀打ちできなかったとかいう文脈だった。(テンプル会はどうなんだ?) どちらにしても、サブプライムが高度資本主義の病気であることは確かなのだろう。 ヨーロッパのカトリック、特にフランスのカトリックは産業革命以降の大都市で生まれたの工場労働者の悲惨さに対抗して弱者救済の事業を次々と起こした。普遍宗教と名がつく宗教はたいていその発祥において弱者救済の社会事業を興している。 しかし、たとえば日本史なら、光明皇后が仏教に帰依して悲田院とか施薬院を創設した、みたいに上からの慈善、という感じがするが、伝染病などは社会の秩序維持のために隔離されるのが為政者として「正しい」やり方という認識があったのではないだろうか。16世紀の宣教者たちが日本のあちこちで、「お家芸」ともいえる、不可触賤民(ハンセン氏病患者など)の保護施設を作って親身に世話した時は、そんなソシアルの発想のなかった日本の領主などが驚いた、そして立派だと言ったという記録が残っている。 Claude Gutman という人の保育所についての本を翻訳している人から、パリの養護施設と愛徳姉妹会の関係について質問されたのでちょっと調べてみたら、フランスの社会福祉事業の大もとは、ほとんどヴァンサン・ド・ポールと彼の姉妹会の関係者が一手に基礎を築いてることが分かってあらためて驚いた。 「社会的弱者に仕える」というのはもともとすごく福音書的なので、政教分離がぱっとしないアメリカの大統領候補者たちは誰でもみな福音書をわざわざ引きながら弱者救済をうたっている。金権選挙を勝ち抜く彼らの口からでるとしらじらしいというか、ほんとにそう思ってるんだったら世界がもうちょっとどうにかなってるはずなんだが、と思う。 フランスでは宗教にソシアルを求めるという伝統はそれでも潜在的に根強く、B16が来るというので、多くの人が、彼から「世直し」のインスピレーションを期待していたのが印象的だった。 資本主義の害悪がはっきりしてきたと思われた1891年、レオ13世が『Recum novarum』を発表した時、フランスの社会主義者ジャン・ジョレスは、「こりゃあ、社会党のプログラムじゃないか」と叫んだという。 カトリックのソシアルの過激ぶりが目立たなくなったのは、というか、ニュアンスが変わったのは、人間性を奪われて搾取される労働者を同じように救おうとして声を上げながら同時にキリスト教を蛇蝎のように排除しようとした共産主義の台頭のせいだ。 キリスト教はもともと「人間はシステムよりも価値がある」という姿勢だから、共産党独裁システムにもそぐわなくて、結局、カトは、リベラリズムもマルキシズムも批判して、「システムの構築ではない、現場での草の根的救済策を守った。その結果的な中立路線のあまり、カトリック・ソシアルの帰結だった中南米の「解放の神学」をも切り捨てたくらいだ。 JP2は、1991年に、共産主義陣営を倒してポーランドを救った勢いからか、『Centesimus annus』の中で、市場主義経済の擁護(警戒の意味もあったはずなのだが)ともとられることを言って、経済というものを分かる初めての教皇だ、などと言われたこともある。 フランスには、カマンベールと同じくらいの特産と言われる「左派カトリック」(カト左派というより〉というのがあって、社会党のミシェル・ロカールやジャック・ドロールなんかがそうだった。彼らの政策はあまりにも「現実的過ぎる」として、建前や理想主義、理念にはしる社会党から嫌われたくらいだ。 今でもセゴレーヌ・ロワイヤルが「超越」という言葉を口にするなど、カトの香りはないでもないが、サルコジのカトすりよりと対して変わらぬレトリックの域をでない。68年世代のPascal Lamy とか Jacques Maillot などを別として、いまや、若い世代は、政党よりもNGOの中でのソシアルに向かっているようだ。 サルコジに至っては、彼の「神すりより言辞」はアメリカの真似プラス、ボナパルティスト的な行動原理ゆえである。 この男は、フランス的エレガンスというものを持っているふりさえしないという驚くべきキャラで、去年、あるカトリック系雑誌(La croix)のインタビューに答えてこう言ったらしい。 「ええ、たまに教会に行くのは好きだよ、私にとっては文化的、アイデンティティ的な手続きのひとつだね。いろんな思い出がよみがえるよ」 だそうだ。昨年12月にはじめてヴァチカンでB16と会見する時30分遅刻したり、B16の説教の間に携帯メールを確認したり、2度の離婚3度の結婚の履歴も含めて、こんな男にこんなことを言われたくないとフランスのカトは思っているだろう。
by mariastella
| 2008-09-17 01:54
| 宗教
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