Les amants magnifiques
いきつけの小劇場 Theatre du Nord-Ouest に、モリエールの『Les Amants magnifiques』を観にいった。
今から年末くらいまでにパリにいる人、是非観にいって欲しい。 あんまり観客が少ないんで気の毒だからだ。こんな良心的な上演がペイしないと、文化が貧困になってしまう。 私は昔、6人から12人くらいまでのアンサンブルでいろんなところで弾いていた。中には、すごく客の少ないコンサートもあった。その時に言われたのは、「客の数が出演者の数よりも少なければ、出演者は上演を取りやめる権利がある」、ということだ。実際はそんなことは一度もなかったが、こっちが12人だと、思わず客の数を数えることもあったし、私がコンサートをオーガナイズする側になっても、サロン・コンサートなんかでお天気が悪くて7人しか集まらないことがあった。出演者は2人だった。まあ、そういう時に来てくれる人はモチヴェーションが高いし、密度も高いので、帰って充実して喜んでもらえることが多かったが、そんなわけで、小劇場で出演者の数と客の数を比べるのは癖になっている。 で、今日の午後は客が私を含めて8人、出演者は13人である。だからすごく居心地が悪かった。しかもそれだけでも眼福って感じの「コスチュームもの」だ。私の他には年配の男性4人、中年の男性1人、中年の女性2人、みな単独客だ。なにしろ空いているのでバラバラに座っているからよく分かる。カップルで芝居を見物に来るのが普通のフランスではめずらしい。私は割引券を持っているので、13ユーロしか払わず、演出や照明や衣装など無視して単純計算しても、役者1人に1ユーロしか払ってない計算である。 今シーズンはモリエールの芝居34作品の上演だ。この作品のように珍しいものが観られる。 私にとってこの作品が絶対に見逃せなかったのは、リュリーの音楽にバロックバレーの振り付けがついていると思ったからだ。実際は、音楽は録音だったし、サラバンドなどの振り付けもたいしてバロック的ではない。というか、俳優たちは明らかにダンスの素養がない。 でも、それはそれで悪くなかった。衣装が美しいこともあるし、劇中劇の設定がおもしろいからだ。それに、基本的に、16世紀以来のダンスの基本は poser しながら「歩くこと」である。かかとから、一踏みごとに体重をのせて、時間と空間をその度にたっぷり満たす。プリエやドゥミ・ポアントはそのヴァリエーションに過ぎない。ピョンピョンはねるのが民衆的なダンスから来てるとしたら、poser して、体の占める時空を移動させていくのが、領主や法官や聖職者の歩き方で、その発展形としての宮廷ダンスだった。 女性の方は、poser というよりも、上半身のプレザンス presence が問題になる。足と腰にどうやって胸郭を乗せていくか、である。 だから、poser と presence さえ成功すれば、音楽にあわせて歩くだけで、宮廷バレーは基本的に成功する。後は、文脈の問題だから、踊りのテクニックがなくても、それだけでは台無しになることはない。 しかし、この作品が必見なのは、歴史的興味からである。 これは、モリエールからリュリーに寵愛を移し、マドモワゼル・ラ・ヴァリエールからモンテスパン夫人に寵愛を移したルイ14世が、自分が愛人たちと踊るためにモリエールに書かせた舞踊劇なのである。ルイ14世、王妃、二人の愛人、王の弟、そしてモリエール自身も出てくる。モリエールがラシーヌだのコルネイユだのと決定的に違うのは、自分自身が役者で舞台監督だったことだ。この作品では、王や王妃たちが自分たちの役で出てくると同時に、劇中劇で踊ったり牧歌的な愛のコメディを演じたりする。 散文劇のせいか、すごくリアルである。あの頃の、「恋愛作法」のややこしさと倒錯も実にリアルに伝わってくる。しかも言葉の力が強烈なので、大した話でもない恋愛シーンですら、それなりに迫ってくる。キャスティングもなかなかいい。衣装もいい。 私は『バロックの聖女』(工作舎)の中で、ヴァリエール嬢とルイ14世の恋について書いた。この芝居が演じられた頃にはサンジェルマンの城で、ヴァリエール嬢はモンテスパン夫人と続きの部屋をあてがわれて、ほとんどいじめにあっていた。まもなく、修道院に入ってしまう。 ルイ14世は、そういう時代にこういう劇を書かせて、その中で二人を出演させて、自分は劇中劇でモンテスパン夫人とキスするシーンもあるのだ。 この劇の中心となる恋愛は、若い貴族の娘が二人の求婚者のどちらを選ぶか、それとも彼女にひそかに思いを寄せる将軍と結ばれるか、という話だ。それはそれで、この頃の恋愛の建前と本音がおもしろいのだが、どうしても、ルイ14世と二人の愛人とモリエールに目がいく。ルイ14世紀の時代に興味のある人にとっては、新鮮な光を投げかけてくれる作品だと思う。
by mariastella
| 2008-10-12 05:40
| 演劇
|
以前の記事
2026年 06月
2026年 05月 2026年 04月 2026年 03月 2026年 02月 2026年 01月 2025年 12月 2025年 11月 2025年 10月 2025年 09月 2025年 08月 2025年 07月 2025年 06月 2025年 05月 2025年 04月 2025年 03月 2025年 02月 2025年 01月 2024年 12月 2024年 11月 2024年 10月 2024年 09月 2024年 08月 2024年 07月 2024年 06月 2024年 05月 2024年 04月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月
カテゴリ
全体
雑感 宗教 フランス語 音楽 演劇 アート 踊り 猫 フランス 本 映画 哲学 陰謀論と終末論 お知らせ フェミニズム つぶやき フリーメイスン 歴史 ジャンヌ・ダルク スピリチュアル マックス・ジャコブ 死生観 沖縄 時事 ムッシュー・ムーシュ 人生 思い出 教育 グルメ 自然 カナダ 日本 福音書歴史学 パリのオリパラ 人生観 日本とフランス 未分類
検索
タグ
フランス(1380)
時事(824) 宗教(757) カトリック(672) 歴史(440) 本(316) アート(256) 政治(227) 映画(188) 音楽(162) 哲学(114) 日本(112) フランス映画(111) フランス語(97) コロナ(85) 死生観(63) 猫(57) フェミニズム(50) エコロジー(48) 思い出(43)
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||