L'art de croire             竹下節子ブログ

2018年 04月 05日 ( 1 )

テロリストを赦すことができるか? --- 父の怒りと母の戦い

少し間があきましたが、これは前のこの記事の続きです。


2012年、3月、大統領選前のトゥールーズで、モアメッド・メラというイスラム過激派が、子供3人を含む7人を殺害するという事件が起こった。標的にされたのは軍人やユダヤ人学校の教師や生徒たちなどで、殺害の瞬間を記録公開するために撮影までするという残虐なものだった。

逃亡して閉じこもる犯人を追い詰めるまで、フランス中に衝撃を与えた事件だけれど、それが3年後のパリのシャルリー・エブド襲撃事件や組織的な無差別多発テロへのプロローグとなるとは、当時誰も想像していなかった。

このテロの犠牲になった人の家族のうちで、その後もメッセージを発信続けている一人の父と一人の母がいる。

父とは、メラに息子と孫2人を殺された男性だ。父でもあり祖父でもある。

息子はユダヤ人学校の教師で、孫はその学校の生徒だった。

2012319日、朝8 時、学校の前でメラが発砲し、3歳と6歳の 2人の幼い息子を守ろうとした30 歳のラビである教師ジョナタン・サンドレールも撃たれた。

ジョナタンは1982年ボルドーに生まれ、中学2年まではヴェルサイユ近郊の公立学校に通い、その後でトゥールーズのユダヤ人学校に通ってバカロレアを取得した後、イスラエルでラビ養成の学校に行った。フランスで結婚してからまたイスラエルに戻り、フランス人のラビ志願者を教える側になった。

2人の息子と1人の娘を得て、2011年にトゥールーズに戻って母校でユダヤ教についてのクラスを受け持つことになった。

ジョナタンの父のサミュエルは、事件から6年が経過した20183/21に『我々の子供のことを覚えているか?』という本を出したが、その中で、一度もテロリストであるメラの名を出していない。

3/11からの3度にわたるテロを経て21日に射殺されたテロリストの「モアメッド・メラ」という名は、当時のメディアでも連呼されたけれど、その後、テロのある度に何度も何度も繰り返されて、、いわば21世紀のフランスのテロのプロトタイプのようになった。

それなのに、犠牲者の名は忘れ去られる、もう誰も覚えていない、とサミュエルは言う。

名だけではない。テロリストのメラ(フランスとアルジェリア二重国籍)については、その生い立ちからテロに至るまでの一挙一投足、考え方の変化までその生涯の全てが紹介されるし、テロがある度に蒸し返される。

一方で、被害者の名は忘れ去られるし、どういう生き方をしたかという思い出も想起されないし、どういう生き方ができたかという思いもめぐらされない。ゼロだ。

遺族はただ、事件のことが想起される報道の度に苦しまなければならない。

だから、サミュエルは、本の中ではメラの名を書かないことで、人間性を付与するのを拒絶したという。

それだけではない。共犯だったメラの兄の裁判を膨張した時に、メラの母親が息子ににっこり微笑みかけたのを見た時に、許せないと思ったという。

メラの兄は2017年に20 年の懲役、もう一人の共犯は14年の懲役の判決が下っている。

メラの母は、メラが立てこもったアパルトマンで結局踏み込まれて(官憲2人に重傷を負わせた後だが)射殺されたことに対して、不当な攻撃だとして訴訟を起こしている。

このこともある意味ですごい。

この母親が、テロの共犯のもう一人の息子の公判も支え、頬笑みかけて励まし、息子への愛を表現しているのを目の当たりにしたサミュエルが、自分の息子と孫を不当に、永遠に奪われた身で、愕然とした気持ちも分かる。

加害者の母と被害者の父。

どちらも、あまりにも人間的なリアクションではある。

(サミュエルの名誉のためにいうと、彼は別に復讐を誓っているわけではなく、平和の中に生きることを望んでいる。けれども、テロリストの母の微笑みに抱いた「不当感」を隠すことはできないのだ)

しかし、それとはまったく対極の反応をしたもう一人の「被害者の母」が存在する。

彼女はモロッコ人でムスリム。フランス生まれの息子をフランスのために戦う軍人に育てた。

イスラム・スカーフを常に被っているのは、イスラムのためではなく、息子の喪に服するためであり、それまでは一度も髪を被ったことはなかった。(続く)



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by mariastella | 2018-04-05 00:05 | フランス



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