L'art de croire             竹下節子ブログ

2018年 05月 30日 ( 1 )

沖縄を考える その10

沖縄に行ってからひと月経った。

まだ書いていないことの方がたくさんある。

沖縄で実際に行ったり、見たり、聞いたり、説明したりしていただいたことで、ますます、他の方や他の時代の沖縄についての論考を渉猟するようになった。

だから、考えをまとめるよりもどんどん深入りすることになっている。

私は今、ベトナム戦争でも兵役拒否をしたアメリカ人のウェイン師を新司教に持つ沖縄のカトリックと、韓国のカトリック教会などのつながりに、東アジアの平和への希望を見出そうとしている。
それなのに、そのような取り組みを、「反日」やレイシズムのヘイトに満ちた言葉で攻撃する人もいることも知るようになった。

でも、政治的などんな偏見やら思惑よりも、実際に毎日、「基地の島」の現実から被害を受けている人々の生き方、あり方を改善することが先決だと思う。

ライプニッツは、カトリックとプロテスタントの三十年戦争によって荒廃をきわめたドイツの現状を見て、キリスト教の宗派対立を調停するという道を選択した。モナドロジー(単子論)が生まれた。
人口の四分の三を失い、農業、商業が壊滅し、社会のモラルが失われた当時のドイツ社会を立て直すために、もはや宗教的な物語を利用することはできない。それこそが社会の荒廃を引き起こした本質的な理由だからだ。

(これは今のイラクで、もうスンニー派とシーア派の色のついた政党ではなく政教分離の民主政党を立ち上げる運動があるのと通じる)

そこでライプニッツは、自分たちの「絶対」を掲げる宗教ではなく、どんなものでも見方によって変わるという相対主義を唱えることになった。

ライプニッツは、ある町をどの角度から見るかによってその町のイメージがまったく違うことを例に挙げる。
見る人の視点だけ町がある。
ちょうど「群盲象を撫でる」と同じだ。「実際に触れた」ことから来る確信など、全体の真実にはつながらない。

けれども、町を取り囲む要塞の壁の前にたたずむ人と、中心部の丘に建つ塔から町を見下ろす人では情報の質も量も雲泥の差であることにライプニッツは注目する。

できるだけ多くの角度、多くの要素を取り入れるのも大切だけれど、絶対に見ることのできない盲点は常に存在する。

町を最もよく見はらすことができるのは「神の視座」である。
人間が神の視座に到達ことはできないが最終地点は必ずあるという意識が、この世界やモノや他者を「よりよく」見ようとすることを促す力動を生む。

ライプニッツの結論は、「真実を求めるエスプリにとっては、進歩は決して終わりがない」ということだ。

相対主義ではない普遍主義はいつも「神」と関係がある。

相対主義で、敵対するどちらの側にも一理ある、とおさめるのが便利なこともある。「どちらが悪いか」という裁きは難しい。

けれども、たとえば、ある共同体に人身御供や障碍者抹殺などの「伝統」や「文化」があったとしても、外部の者がその「多様性」に驚いていた時代から、今では、個々の文化や伝統にかかわらず、「すべての人の命の尊厳が守られるべきである」という「絶対」善がコンセンサスとなってきた。

神の視座の普遍主義というのは、宗教の教義や宗派のトップの判断などとは関係がない。
個々の人間や風土を異にするさまざまな共同体にとっての「正義」だの「善」だのを超えた普遍的な視座がどこかにあること、そこに到達することはできないけれど、「よりよい」ものを求めるという選択は必ずあることを信じ、期待することだ。

ライプニッツの「町」と同じで、私がたまたま立った地点からだけで「沖縄を考える」などと大それたことは言えない。
同じように、「沖縄」の不条理だけを見てイランやシリアやアフリカや、世界中で起こっている不公正や不条理を語ることはできない。

でも、あらゆる不公正のある場所には、いろいろなレベルで苦しんでいる生身の人たちの毎日の生活がある。

私の「沖縄を考える」は、そこに絶えず回帰しながら続いていくだろう。

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by mariastella | 2018-05-30 00:05 | 沖縄



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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