L'art de croire             竹下節子ブログ

2018年 11月 22日 ( 1 )

『神と金と革命がつくった世界史』について

11/17の日経新聞に橋爪大三郎さんが書いてくださった書評が掲載された。
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思えば橋本さんの『ふしぎなキリスト教』が数年前にベストセラーになったことが、驚きだった。「キリスト教」に日本の読者が関心を持っていないわけではないことが分かったからだ。

でもその「ふしぎなキリスト教」の「ふしぎさ」にはいろいろと突っ込みどころが多すぎた。橋爪さんたちの展開するキリスト教史は、まさに、私の世代が共有する教科書的キリスト教史観なのだけれど、それは、実は、西洋近代史の特殊な文脈の中で様々な政治的、イデオロギー的な意図によって構築されたモデルだった。

キリスト教といっても、当然いろいろな宗派があるわけで、その中で、近代のグローバルスタンダードとして定着した西洋近代思想のルーツになった部分が、どのように批判され、姿を変えて評価され位置づけられたかというのは、カトリック文化圏とプロテスタント文化圏ではまったく違う。

そのことに特に注目して(特にアングロサクソン系史観の影響を受けた)「日本の教科書的キリスト教」の成立について書いたものが2012年に出した『キリスト教の真実』(ちくま新書)だった。私には「真実」などという畏れ多いタイトルを掲げるつもりはなかったのだけれど、「ふしぎなキリスト教」のおかげで「キリスト教」が「売れるアイテム」と認知されていたのでこのタイトルがつけられたようだ。
そして、その本に、なんと、橋爪さんが、「本書から学ぶべきことはたくさんある」という帯の推薦文をくださったのだ。

その後、「ふしぎなキリスト教」を出した講談社現代新書から、この本に対して反論もできる「キリスト教が分かる本」を書きませんか、と提案された時は、私の中ではもう、「キリスト教の真実」で言いたいことは言っていたので、今度は、政治や歴史にこだわらず、一神教や二元論、三位一体などのベースの最新情報を紹介しようとした。一、二、三と続くので、後も四、五、と続けて、どこを読んでもいろいろな情報ができるような構成にした。

ところが、書き上げた本は「新書には難しすぎる」と言われた。
でも、「難しい部分」は、それを求めている人へのサービスの部分なので削りたくはなかった。

その本が『キリスト教の謎』(中央公論新社)から単行本で出してもらえることになった。情報満載で私が読者なら絶対に読みたいお得な本なのだけれど、想定読者が曖昧になったと思う。

それでも、ごく最近、清眞人さんから『フロムと神秘主義』(藤原書店)という本を贈呈していただき、そこで、私の『キリスト教の謎』の十字架の章を引用させてもらった、と連絡いただいた。

こんなところで、こんな立派な学術書のお役に立っていたとは…。

私は日本の研究者とほとんどコンタクトがないので、こういう本やこういう方がいることも知らなかった。
出版不況下で良心的な本をどうやって残していけるのかも手探りだった。清さんの本やサイトによって、藤原書店の存在も知り、清さんがKindle個人出版というのも展開していらっしゃることを知り、今の時代、その気になれば持続的で良心的な情報発信は可能なのだなあと希望が持てた。

で、この時もタイトルにキリスト教が入ったわけだけれど、

『神と金と革命がつくった世界史』には「キリスト教」が入っていない。(サブタイトルには「キリスト教と共産主義の危険な関係」とある。)

この本では、ちょっとキリスト教の呪縛から抜け出して、普遍主義の理想と限界を広い意味でとらえたかったからだ。

その前に『キリスト教は宗教でない』(中公新書ラクレ)というのも出していただいている。これによって、特定の政治や社会、権力と民俗と切り離せない「宗教」からキリスト教のエッセンスを切り離す姿勢を明らかにしたかったのだけれど、これも、なんと、「護教的」ととる人がいた。

キリスト教の元はまさに革命的だったと思う。社会の秩序、権力構造、規範などの上に「愛」を提示したからだ。もちろんそんなことがゆるされるわけはなく、時の宗教権威からも政治権威からも弾劾されて処刑された。そんな宗教が、ローマ帝国の国教となってから今の世界の社会民主主義スタンダードを作るに至るなんてまさに「ふしぎ」である。

で、「キリスト教」と距離をおいて、近代の日本やアジアのことを顧みながら今の世界をどういう視点から見るかという提示の一つが『神と金と革命がつくった世界史』だった。

その本に、橋爪さんが要を得た書評を書いてくださったことは、「不思議なキリスト教」から続くご縁を感じ、私の言葉が伝わってほしい場所に伝わっていることを実感できて、ありがたいことだった。

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by mariastella | 2018-11-22 01:22 |



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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