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L'art de croire             竹下節子ブログ

2019年 03月 14日 ( 1 )

サンタンヌ病院の精神病理学アート展

「精神病院」の代名詞になるほどフランスで最も有名なサンタンヌ(聖アンナ)病院。

1950年の最初の精神病理学アート展開催以来、多くの所蔵作品がある。

一番古い作品は1858年のものだという。


アートがセラピーの一環になっているのは事実だけれど、「精神病患者に絵を描かせた」というものではなく、すでに「画家であった人で精神を病んでいる人たちが描き続けた」作品群が今回の中心だ。

病理が絵になるのではなくそれぞれのアーティストの本質であるのアートが絵として表出する。絵で病を治療するのでなく絵によって病を探る、という。

自分の耳を切りおとしてアルルの精神病棟に入れられたゴッホや、晩年を精神病院で過ごしたカミーユ・クローデルはあまりにも有名だけれど、画家には、特にプリミティヴ派といわれる人たちには「幻視画」が知られていて、幻覚体験とアートには深い関係がある。

今回の展覧会は特にシュールレアリスムの流れとの関係も興味深い。

フランスではFous(狂人) とか Folie(狂気)とかいう単語が今でも普通に使われるので、「狂人たちのアート」などと言うタイトルがついているので、どきりとする。もっとも今回は、1950年代に普通にそう使われていた歴史的用語として再現したという。

つまり「狂人アートから精神病理学アートへ」というタイトルだ。

雰囲気はこういうもの。


このビデオで取り上げられているのはウニカ・チュルンUnica Zurnという作家で画家(1916-70)の作品で彼女はこのサンタンヌ病院に一年間入院していた。彼女はドイツ生まれで、夫のハンス・ベルメールと共に早くからパリに住んでシュールリアリストのグループに属していた。夫が脳卒中で半身不随になり彼女は統合失調で入院を繰り返していたけれど、最後に一時外出でアパルトマンに戻り、夫の寝室の窓から投身自殺した。今回は展示されていない。

これはサンタンヌ病院の入り口。

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高い塀がちょっと刑務所っぽい
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展覧会のポスターが見える。

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中に入ってまっすぐ歩くと右手にテニスコートがあり、その横の会談を地下に降りると展覧会場だ。

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「サンタンヌ病院アートと歴史ミュージアム」(MAHHSA)というのが正式名称で、入場は無料。

売店にいたのは元作家で今は絵を描く女性で、精神科病棟のアートセラピーの職員としての本採用のために勉強しているそうだ。いろいろ話をした。

右手の部屋が、「画家」が入院中に描いた作品。

入院したら例えば薬物治療のせいで絵が変わるということはないのかと質問したが、まったくないそうだ。この展覧会の目的のひとつはそのことを知らせたいからだという。つまり、精神的な病と作品とは別のものだということを言いたいわけだ。それはまあ分かる。展示されている絵の中に、「やっぱり精神異常の人が描くからこんな風になるんだなあ」というサインを探ってほしくないということだ。

「でも、狂気と聖性と神秘主義とアートって、別々のものではない同じフェーズがあるのでは?」と聞いてしまった。ここに展示されている「アート」の中から「狂気」を取り去ったら「お絵描き」しか残らないのではないか?

左手の部屋は、病気の発症と画作とが同時期であるもの。

確かに「先入観」をもって見ると、気味悪くグロテスクなものもある。

けれども、奥にあるシリーズはシャルル・シュレイという人のものでまったく別の世界だった。

彼は17歳から入院してずっと病院で過ごした。セラピーの一環で絵を描いたのではなく、ある時偶然に、医師が彼の部屋で大量のスケッチブックを発見して驚倒したのだそうだ。

彼の絵のほとんどは色鉛筆の作品なのだけれど、すべての色が何度も塗り重ねられたものだ。統合失調の診断だったらしいが、どの作品も驚くほど「完成」しているので、私は彼はむしろアスペルガー症候群ではなかったのかと聞いた。統合失調とアスペルガー(自閉症スペクトラム)が併発するいうことはあり得ないのだろうか。

アフリカにこだわっている絵がいくつかあったので、アフリカ出身なのかとも思ったけれど、普通の白人のフランス人で、17歳で入院してから一歩も外に出なかった人でもあり、彼の描く世界、建物、自然、などはすべて彼の脳内の産物らしい。

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彼のひとつの作品を5分以上見ているのは危険だ、と本能的に思った。5分後には「あっちの世界」に確実にとりこまれている予感がする。建物の構造、角度、デザイン、空気がすべてなじみのある本物に見えてくる。

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カタログの写真を見るとそんなことはないので、やはり「波動」の交換みたいなものなのだろうか。

知り合いが、有名な作品は美術館で無数の人の視線にさらされているから「目垢」がつく、といっていたけれど、ここにある作品は、目垢がついていない分、「うずうずしている」何かを発散しているのが怖い。

では、サンタンヌ病院内のアートセラピーによって才能が見出されたという例はないのかと聞くと、あるという。ひとりの女性は、アートセラピーで絵を描くうちに才能を見出され、しかも完治して、退院して、個展を開いたり美術館に作品を買い上げられたりしてプロの画家として活躍しているのだそうだ。その人の絵は展示されていなかったけれと、彼女が自分の来た道を語ったセミナーの記録を購入した。

15歳くらいで入院してアートセラピーのアトリエで認められたクリスティーヌ・ラブローという女性の

こういう作品群も迫力がある。

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今回は展示が終わっていたけれど、1950年代に日本の精神病院からサンタンヌ病院に寄付された絵が数点カタログに載っている。名も不明で病歴も不明なのだけれど、このシリーズが、なんというか、日本人が「狂人の描く絵」に抱いているイメージにそっくりなのだ。その後にはインドから寄贈されたものがあるがまったく違う。個人の差なのか文化の差があるのか。1930年代の作品で、かなりショッキングだ。

これが日本。

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これがインド。

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そういえば、最近は「日本初のアール・ブリュット」がヨーロッパでも人気だという話を聞いたことがある。

「アール・ブリュット」と重なる部分に「サイコ・アート」という分野があって、あちらこちらで展示されているのを今回初めて知った。

私の気に入ったのはジャン・ジャメスのこれ。タイトルはないけれど絶対にナポレオンだ。

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関係書をたくさん購入したので少しずつ読んでいこう。


by mariastella | 2019-03-14 00:05 | アート



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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