L'art de croire             竹下節子ブログ

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クリスマスマーケットのテロ

予約投稿の続きものを中断して、12/11に起こったストラスブールのクリスマスマーケットのテロのことを書く。

11日の19h50に29歳の男が観光客も含めて賑わうクリスマスマーケットで銃を撃ち、3人死亡、8人重傷、5人軽傷だそうで、その後タクシーを強奪してドイツ方面に逃げ、これを書いている時点(12日の朝)では捕まっていない。

20hにはTVのニュースを見ていたが、その時点ではテロの情報確認のためか、まったく触れられていなかった。10日のマクロンの演説の分析や「黄色いベスト」の反応がほとんどだった。
何しろ10日のマクロンの演説は歴代大統領の演説生中継の中で視聴率が断然トップだったという。2位が、2015年1月のシャルリ―エブド襲撃テロの直後のオランド大統領の演説と2007年3月のシラク大統領のサヨナラ演説が並んでいる。

これらがいずれも今年のサッカーのワールドカップでフランスが優勝した決勝戦の視聴率を上まっているのだから、フランス人って、エリゼ宮から発せられる「僕たちの選んだ王さま」が直接声をかけてくれる演説がどれだけ好きなんだ、ということが分かる。だからこそ、マクロンが自分が任命した首相に任せてなかなか表に出てこなかったのが怒りに油を注いだんだなあ。
民主主義の危機、政治の民主主義だけではなく社会民主主義、経済民主主義の危機だと認めてもらったことで怒りが少しおさまった感はある。

で、「黄色いベスト」運動について何度かこのブログで書きながら、私は「でもテロの恐怖よりずっといいや」と思っていた。狙われるのは警察や政府関係の場所やブティックで、場所も限定されているから「普通の人」が巻き込まれることはまずない。2015-16年にかけての無差別テロの恐怖と比べればまったく種類が違う。
それどころか、「黄色いベスト」運動のおかげで、「イスラム過激派」やそのシンパは影を潜めた感がして、イラクやシリアのISが掃討されたこともあり、例の2024年のパリ・オリンピックに向けて「テロはアンダーコントロールね」というので、ああ、オランド大統領時代のテロは終わったのかという単純な安心感が少しはあった。
去年まではクリスマスシーズンになると、2016年のベルリンのクリスマスマーケットのテロの記憶も生々しいので、教会やカテドラルのそばに行くのもなんとなく怖かったのだけれど、今年は「黄色いベスト」だから、彼らもクリスマスは家族で楽しむはずで、楽勝だなあと思っていた。

それに加えてテロの緊急事態宣言以来、諜報技術も高まり他国との連携も緊密になって、テロ計画の事前発覚と逮捕というのが増えていた。問題は、ISにインターネットなどで煽られた個人が過激化して地元でテロにはしるという予測のできないケースだけれど、それはそれで怖いとしても、アメリカでテロよりも頻繁に起こる「拳銃乱射事件」のニュースを聞くにつけて、リスクはアメリカよりも低いしなあと思っていた。

でも、今回のテロリストは、2015年に話題になった典型的なタイプで、2015年の同時多発の連続テロのテロリストもストラスブールの「イスラム過激派地区」に滞在していた。29歳の男もその地区出身の住民で、はじめはさまざまな空き巣などの犯罪に手を染めて何度も刑務所に入っている「移民地区のよくある犯罪者」だったが、最後に刑務所にいた2015年に刑務所の中でイスラム過激派に「洗脳」されたというお決まりのケースとなった。で、インターネット閲覧履歴などから、イスラム過激派警戒の要注意人物として登録されてはいたのだけれど、そんな人物はたくさんいるので、終始見張られているわけではない。組織的でなく単独でテロをやろうと思えば成功する率は高い。

今の時点で彼の名は発表されていない。捜査の効率を高めるためだそうだ。

このことで「黄色いベスト」運動一色だったメディアが一斉にテロ報道で埋まり、「イスラム過激派がキリスト教のクリスマスを狙う」という、今となってはなんだか少し懐かしいような構図が再び浮上した。

だから「黄色いベスト」の中には、「もうこんなことやってる場合じゃない」、とクリスマスを年一度の家族の集まりとして楽しむ「普通のフランス人」に戻ろうとする人、それでなくともプロの壊し屋が混ざるせいで「暴力」のレッテルを貼られるのが遺憾なのにテロとも比べられると困るという声が増えてきた。

同時に、こういうクライシスには必ず登場する「陰謀論」も現れている。

つまり、政府が「黄色いベスト」運動から注意をそらすため、収束させるために、ストラスブールのテロを利用している、というものだ。

それにしても、11月半ばから続く不穏な空気がマクロンの「謝罪」ポーズでようやく落ち着くかという時、遅らせていたクリスマスショッピングにこれから精を出す、と人々が語り出した時になって、再びテロ、しかもフランスで最も有名な「クリスマスマーケット」のテロということで、ああ、中東の危機は収束などしていないのだなあという現実をつきつけられる。
難民に関するマラケシュ合意やヨーロッパ諸国の右傾化などに対してEU理念を掲げて戦おうとしているマクロンの立場は困難を極める。
中東だけではなく、フランスが派兵しているマリやニジェールの情勢も膠着状態だ。

平和とは、リビングの真ん中でデコレーションが点滅するするクリスマスツリーの周りで完結し味わえるようなものでは、ない。


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by mariastella | 2018-12-13 00:24 | フランス

黄色いベスト運動とフランス革命

12/10、マクロンがようやくTVで13分間、反省の弁と最低賃金の100ユーロ上乗せなどを語り、今の状況を「経済的社会的緊急事態」と形容した。「黄色いベスト」という言葉は一言も発していない。
マクロンのことだから、どういう巧みな言辞を弄するかと思ったら、まあ、過不足ない感じだった。これだけでは全然ダメ、高速道路の値上がりもタバコ税の値上がりも1月から決まっているのだから、と息巻く「黄色いベスト」の反応もあれば、これで、「黄色いベスト」と純然たる「壊し屋」とを区別して対応できるという歓迎の声もある。

マクロンは、デモをするのは憲法で保障された権利だが、いかなる理由があるにしても、店を襲ったり、警官や公務員、国の公共財産(市役所や凱旋門の中身が荒らされたことなど)を傷つけることは許されない、と言っていた。

では、「フランス革命は?」とも思ってしまう。バスチーユ監獄が破壊されたし。

メールで、日本のフリージャーナリストが単身パリに乗り込んでレポートしている記事を読んだことを知らせて心配してくれる人がいた。このジャーナリストはパレスティナなどでもレポートしていて私も興味深く読んだことがあるし、沖縄知事選の結果も真っ先にそこで知った。

で、世界一物価の高いフランスに来て大赤字になりそうでカンパを募っているのだが、彼のレポート写真とは、パリの銀行やスタバのガラスが割られているもので、ネオリベ富裕層のシンボルである銀行とアメリカ資本のグローバル化のシンボルであるスタバが狙われた、という文脈だった。

正直いって、赤字覚悟でパリに来るメリットはないなあと思った。パレスティナやロヒンギャ難民キャンプとは違って、フランスではジャーナリズムが機能しているから、地方の動きを含めて、リアルタイムの情報もリピートもあふれている。

「スタバはアメリカ資本だから狙おう」なんて発送する「黄色いベスト」などいないだろう。
先週土曜に襲われたのは庶民的な街でのメガネ屋とスポーツ用品だったし、中心街で時計や宝石店が襲われるのは、前にも書いたけれど、残念ながら、ほぼプロの「壊し屋」集団の常で、今回は興奮した「黄色いベスト」のメンバーの一部が確かに加わったという感じだ。
(それに「破壊」は土曜日限定で、日曜のデパートは人があふれ、ジョニー・アリディ葬儀の一周年のミサも地方からも押し寄せるファンでマドレーヌ寺院と周辺は満杯だった。数年前のテロの厳戒態勢などに比べると比べ物にならないリラックスした光景だ)

「黄色いベスト」の怒りはまさに「新しい政治をやると言って直接選挙で選ばれたくせに上から目線で富裕層ばかり助けている」というマクロンと政府に向けたもので、警官や「共和国のモニュメント」を攻撃しろ、ぶっ壊せ、という意志を表明した「確信犯」は少なくない。

その意味では確かに「フランス革命」の精神を踏襲している、というか、その正当性があるという意味の「確信犯」だとも言えるだろう。で、日本のフリージャーナリストが自腹で「革命の現場」をレポートしに来たのだろうけれど、すでにもっとインパクトのある破壊シーンが出回っているのに、個別のつっこんだインタビューもできないで恣意的に切り取るのは無駄?で的を外している気がする。もっと別のところで貴重な情報を集め続けてほしい。

でも、ともかく、このような「暴力」と「破壊」のエスカレートがマクロンの譲歩を引き出したのは事実だ。

今の私は絶対非暴力主義だけれど、カトリックの歴史の中で興味深い例を引いた記事を読んだ。(続く)



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by mariastella | 2018-12-12 00:05 | フランス

レース入り物差し

12月のはじめは、屋外のいわゆるクリスマス・マーケットでなくても、あちらこちらで小規模な展時即売会がある。友人のアーティストが出品するものに毎年行くのも楽しみだ。

私のうちの近くでも、画家や陶芸家の展示即売会がある。アーティストの中には私の歴代のピアノの生徒の親も少なくない。
で、この前、駅の帰りに寄ってみたら、それはいつものやつではなく、手芸品だった。ほとんどが年配の女性で、刺繍や編み物作品ばかりだ。自分が若い頃は、こういう作品はご年配の方のものばかりだなあ、という印象だったけれど、今は、自分と同じ世代の女性たちなのだから、不思議だ。
子供たちと孫たちにいろいろなものを手作りしてきた女性の作品展示コーナーですてきなものを見つけて値段を聞いたら、非売品だということだった。「ひょっとして、ピアノの先生?」と言われて顔を見ると、その昔、彼女の娘も息子もうちにレッスンに来ていた「おかあさん」だった。その娘の息子にも一度ギターを教えていたので二代に渡るおつきあいだ。
こんなにすばらしいものを手作りしていた人だったのだとはじめて知った。

で、結局私が買ったのは、クリスマスプレゼント用ではなく、文房具フェチなので、自分用の「物差し」。

その道では有名らしいかなり高齢の女性が伝統的なレース編み機で作るとても繊細なモティーフの大作がたくさんあった。職人技のすごさだけではなく、発想も、デザインもすばらしい。
けれどもどれも芸術作品過ぎて、額装して飾る以外に考えられない。
で、身近に置いておけるものは、と探して見つけたのが物差しだった。
30cmのプラスティック物差しの中にレース編みがはさまれている。

レース編み好きと文房具フェチが一致した幸せの一点だった。

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by mariastella | 2018-12-11 00:05 | フランス

黄色いベスト運動の現状について

日本のTVで、毎日のように「パリは燃えているか」という具合に、パリの「暴動」の様子が放映されているとかで、日本の知り合いから次々と「大丈夫ですか?」とメールをいただくようになった。

うーん、確かにパリ中心部のホテルやデパートやブティックはこのクリスマスシーズンに土曜に店を閉めるだけでも痛手だろう。特にここ2週間は中心部のメトロの駅が土曜日に閉まるので、買い物は日曜日にという人が多く、その代わり日曜の人では多くなる。でも土曜日だって、知人のやっていたオペラ近くの和物のクリスマスマーケットなど入場制限したほどの盛況だったというし、今回の抗議の的は大統領や政府に対してだからエリゼ宮周辺でなければ、静かで、「富裕者優遇」への抗議でもあるから、庶民的な場所は静かだ。

この土曜日にはエコロジーのマニフェストが、レピュブリック広場などであったけれど、和やかだった。

それでも解散時にいくつかのブティック(スポーツグッズと眼鏡店)のガラスが破壊されたけれど、それは、残念ながら、この所フランスのデモで常態化しているほとんど組織的な破壊集団の仕業で、これは今年のメーデーでも大きな問題になった。

今回破壊の対象になったパリの中心にも私の直接関係する場所があるのだけれど、ブティックでない限り、上層階のアパルトマンに直接の害が及んだわけではない。催涙ガスが達したというケースはあるけれど、過激集団が攻撃するのは「政府の手先」である警察などなのだから、「普通の人」は「的」にはならない。

クリスマスのショッピングをする程度の余裕がある普通の中流階層の住む町などは至極静かで平和だ。

私もその一人だけれど、はっきり言ってしまうと、今回のサイレントマジョリティで暮らしが苦しくなった人々の抗議よりも、2015年以来続いていた無差別テロのリスクの方がずっと怖かった。去年まではクリスマスが近づくと、イスラム過激派にカトリック教会などが狙われるのではないかと言われて、教会に近づくのも恐る恐るという感じだったのだ。


でも、今年は、

「イスラム過激派のテロ? そういえばもうきかないなー。何しろ、2024年オリンピック開催が決まった時に『テロはアンダーコントロール』ってことになってるしなー」

という感じだ。(実際はどうなるかもちろん分からない)


今回の「黄色いベスト」は地方の代々のフランス人が中心だが、ムスリムでもずっと前から普通に働いている人たちも同じで、最低賃金で生活できない、というのが第一の問題なのだから、宗教色はない「連帯」がある。

「黄色いベスト」の中の一部の過激派は「壊す」「殺す」という言葉を先週から使い始めて、極左のメランションが「マクロンはケネディのように終わる」みたいなことを言って不穏な空気を煽り、この週末は死者が出るのでは?と懸念した警察が警備を強化し、武器を携帯する「黄色いベスト」を事前逮捕しまくった。だからそれは功を奏して先週よりは害が少なかったのだけれど、装甲車を並べるような光景そのものが「内戦」っぽくてFOX NEWSが喜びそうなフランスのイメージダウンとなった。

でも、今でも世論調査では70%以上のフランス人が「黄色いベスト」運動を支持している。

私もその一人だ。

今まで目に入ってこなかったサイレント・マジョリティの暮らし、これまでなかなか声を上げられなかった彼ら、プライドもあるし、難民、失業者、中東の戦争、テロリストと、大問題続きのフランスでは、一応定職もある自分たちが声を上げるきっかけがなかなかつかめなかったのだと思う。

そして、この「黄色いベスト」運動を支持する、ということが、「腐ってもフランス」「ネオリベの時代でも共和国精神を失っていないフランス」を反映しているようで、好ましく思っている。

これからこれがどのように展開するのかまたお知らせします。


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by mariastella | 2018-12-10 00:05 | フランス

黄色いベスト運動と、富裕層のアクション

先週の週末のパリでの過激化したデモ隊(一部は純然たる破壊グループや盗賊だが)とポリスの衝突が「クリスマス商戦」と観光産業をだいなしにしたことでこの週末の緊張が高まるフランス。ショッピングに行かない人たちはamazonなどの通販に頼り、そのamazonはフランスに税金を払っていないという悪循環。

なぜ週末かと言うと、今回の抗議活動は、最低賃金レベルで働く人(フランスの半数近くだという。所得税を払っている人もそもそも半数以下だ)によるもので、終日は、働いて、夜にロータリーなどの封鎖場所に行き、週末に「マクロンやめろ」と訴えにパリにでる。
パリに出るのも金が要るわけで、車でロータリーを通過する人などが「黄色いベスト」の人々に現金をカンパする様子も報道される。燃費税引き上げは取り消されたものの、「最低賃金では暮らしが成り立たない、購買能力がない」という現実は変わらない。マクロンが富裕者財産税を廃止した恨みも新たに噴き上げる。実際は、富裕者の財産に税をかけるとフランスからヨーロッパやロシアや他の国に逃げられたり、他の国に会社を移したりなどの弊害が続いて、それならそれを軽くしてその分をフランス内の企業に投資してもらおうという理論だったが、それが実際にどう効果を上げているのかはまだ明らかにはなっていない。

それにしても先週末からの凱旋門での攻防などの映像や、テレビのスタジオに招かれた「黄色いベスト」の姿ず家庭でも何度も流されているわけで、小学生たちは「インディアンとカーボーイごっこ」の代わりに「警察と黄色いベストごっこ」をしているというニュースもあった。そして中学レベルでは、みんなが真剣に、黄色いベスト運動と暴力との関係についてなど話しあっているのだそうだ。で、リセはというと、フランスのリセは伝統的に、その後のストやデモなどの市民活動を学ぶ場所でもあるので、全国で200余りのリセにバリケードが築かれて封鎖されているという。

そんな中で、最低賃金ではない余裕のある中流の共稼ぎ家庭の女性と、メディアの人気パーソナリティである富裕層の意見が興味深かった。

女性は、50代初めでまだ子供二人が独立していない。これまでは、自分の気に入った仕事をしてきて、「生活のために働く」という意識はなく「やりがい」「自己実現」のために働いていると思っていた。けれども最近健康上の重大な問題が起きて、職を失いそうになっている。で、パニック。
夫の収入しかなくなれば、「自己実現」どころか、子供の教育費のことも心配になる。「生活のために働く」ことが必要になる。それまで、最低賃金で月末の収支に苦しんでいる人々のことを考えたことがなかったけれど自分も実は紙一重のところにいた。黄色いベスト運動に共感する。

富裕層は、シリル・アヌナ。1969年にチュニジアから移住したユダヤ人家庭出身で1974年にパリで生まれる。父は医師で母は高級ブティックを経営。で、本人も医師の道を目指すことを期待されていたが役者になる。歌手、俳優、コメディアン、シナリオ作家、テレビやラジオのアニメーター、パーソナリティとして有名で勢いもありとても人気のある人だ。

で、この人が、先週来、自分の番組に「黄色いベスト」運動の人たちを招いて話を聞いているうちに、具体的に何かをするべきだと思ったという。
私も、テレビのスタジオや首相官邸に招かれて苦境と怒りを訴える「黄色いベスト」を見るたびに、彼らの前にいるこの議員たちやテレビ局の人たちって、どんなに低姿勢でリスペクトを見せても、自分たちは最低賃金の10倍以上の給料をもらっているのだろうなー、などと思って違和感があった。テレビなら「黄色いベスト」の人たちに出演料をどれくらい払っているんだろうか、彼らはそれをどう分けるんだろうか、とか。

で、シリル・アヌナは、その昔やはりコメディアンのコリューシュが始めて今も続いている「心のレストラン」運動のように、富裕な人が現金を持ち寄って、月末に使える金がない、子供たちにも我慢させるというような「黄色いベスト」層の人たちに少なくともその月を超すことができるような金を手渡す、「心の銀行」を設立するつもりだと表明した。

「心のレストラン」はそれこそ「普通の人」が少しずつ寄付したり余った食料を持ち寄ったりして始まったけれど、「心の銀行」は現金だから、「富裕層」に呼びかけて協力してもらう、すでに共感してくれる仲間が現れた、とシリルは言っている。
もちろん彼らは稼ぎに対してすでに相応の税金を納めている。それでも、贅沢な生活をして資産もあって将来も安泰で、なお余裕がある。今、毎日、生活が苦しいという人たちが「黄色いベスト」をつけて名乗りを上げているのだから、個別の彼らにすぐに助けの手を差し伸べたい、というのだ。もちろん「不正受給」をチェックするためのシステムは最低限作るけれども、「最低賃金で働いている人が暮らせない」状況をすぐに、具体的に、少しでも助けるべきなのがコリューシュの「心のレストラン」に共感し尊敬する自分にひらめいた考えだ、と言う。

すなおにいいなあと思った。
大金が手に入るとすぐに節税やら脱税やら私利私欲や友達優先を考えるような多くの人の他に、具体的に、今、自分のいる国の中で困っている人に、「足らない分」を援助しよう、食べ物ではなくて、その人たちがそれぞれの「足らない」ものに使えるように、現金を提供しよう、と考える人がいるのだ。

私などはこの二つの層の中間でしかなく、月末に苦しくなるような状況にはまず縁がないけれど、ひょっとして長くなる老後のリスクに備える以上の余裕はあるはずもなく、多少の寄付やボランティアをしている程度だ。
それでも、今の時代に生きているおかげで通信環境はあるし、暑さ寒さも屋内ではしのげるし、衛生環境もいいし、好きなものを好きな時に食べられるし、「最低賃金」の人たちどころか、ある意味では100年前の大金持ちよりも200年前の王侯貴族たちより快適な恵まれた環境で暮らせている。
もちろん税金もそれなりに払っている。

けれども、知り合いではなく、「今困っている事情をたまたま知った特定の人に現金を続けて支給する」ような経済状態にはない。

でも、仮にそんな余裕があったとして、この「黄色いベスト」運動を見て、私がシリルのような発想に至ったかどうかは疑わしい。

「私にもしありあまる大金があったなら」などという妄想の中でいつも思いつくのは、どこかにお城を買って、アーティストたちを集め、サロンやコンサートホールを作り、音楽家の研修、フランスバロックの音楽学とダンスの研究などの施設を運営する財団を創りたい、というものばかりだ。

「黄色いベス」運動の人たちは、これまでの路上生活者やメトロの中の「物乞い」、移民や移民の子弟の「ゲットー」、難民キャンプの人々などという、ある意味「カテゴリー化」されて、分かりやすくはあるけれどそれこそ、一人一人のヒストリーが見えないので、その「原因」の究明や解決が難しいと思わせるタイプの人たちではない。

30年前までは、地方の町で私の隣人だったような人たちだ。
どの話も身につまされる。

彼らがマニフェストしてくれたことに感謝する。



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by mariastella | 2018-12-08 18:28 | フランス

国連安保常任理事会とフランス マクロンの憂鬱

国連の安保理事会の常任理事国と言えば、ソ連や中華民国からロシアや中共に引き継がれたとはいえ、第二次世界大戦の戦勝国、いわゆる「連合国」である米英仏中露の5ヶ国だ。


このうちフランスは大戦中はやばやとドイツと停戦して一部占領を許したことで初期の「戦禍」を少なくしたのだけれど、ドゴール将軍の率いる自由フランスが米英軍らと共に戦いノルマンディ上陸作戦にも加わり、みごと、「戦勝国」側につくという離れ業を見せた。


そして戦後はドイツともいち早く石炭鉄鋼共同体で和解と強調の道を開き、ヨーロッパ経済連合を経て今日のEUヨーロッパ連合の立役者となった。ヨーロッパでの戦争をもう二度としないという決意と共に、フランスだけでは立ち向かえないアメリカや日本に経済的に対抗するために、「ヨーロッパ」という「拡大フランス」の衣をまとったのだ。


けれどもその思惑は少しずつ外れていく。

ヨーロッパ内で「政治の巨人フランス」「経済の巨人ドイツ」と言われて「棲み分け」ていたのに、冷戦後に、経済力のない東欧諸国受け入れによるEUの拡大がさまざまな問題を生み、逆に、東西統一を果たして経済的にも政治的にも大きな力を持つに至ったドイツが、経済規準でしかものを見なくなった世界から「EUの顔」と認知されるようになったからだ。


で、1128 日、ドイツの副首相オーラフ・ショルツが、フランスに、国連の常任理事国の地位を辞退して、「EU」にその地位を譲るべきだと提案した。

EU大統領(欧州理事会議長)」はこれまでも、各国首脳が集まるところでは「もう一つの国」のように

扱われている。国連でもバチカンと同じくオブザーバーの資格がある。


とはいえフランスは、近代革命を遂げた普遍主義共和国として、経済的にはEUという虎の威を借る狐としてうまくリーダーシップをとってきたのに、こうはっきり言われたのにはあせっただろう。


その背景にイギリスのBrexitがあるのは間違いない。もしイギリスがEUに留まるのなら、ドイツが、イギリスとフランスの両方に「常任理事を辞退してEUに譲れ」などとは発想できなかったろう。

で、米英中露プラスEU


もちろんこれに「ああそれもそうですね」などとフランスが答えるわけがない。

フランスが翌29日に提案したのは、常任理事国の拡大だ。

ドイツ、日本、ブラジル、インド、アフリカから2ヶ国を迎え入れればいいというのだ。

とはいえ、内部分裂を起こしているEUが今の段階で常任理事国としての機能を果たせるとは思えないし、実はもう十年くらい前から、英仏はドイツ、日本、ブラジル、インドの常任理事国入りに肯定的だった。

けれども日本の参加に中国が反対しているように、今の国連のさまざまな決議のシステムを変えるのはたやすくない。

これにまつわる言説をこれから誰がどのように発するのか注目していきたい。


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by mariastella | 2018-12-07 00:05 | フランス

「黄色いベスト」の暴動とマクロン

近頃、週末になる度に、「黄色いベスト」デモと警察、CRS(機動隊のようなもの)との衝突やさまざまな問題ばかり報道される。年末年始仕様にイルミネーションされたばかりのシャンゼリゼも大被害を被り、次の週にシャンゼリゼへの警戒網を敷いたら今度は凱旋門から放射状に広がる大通りをねらって無許可のグループが集まり、お決まりの「破壊者」というか、デモになるとほぼ必ず現れる暴力集団が、投石し、車や建物に火を放ち、店を襲って略奪する様子を見せられるのはもううんざりだ。

それに煽られて、普通の参加者で「全て破壊したい」と自暴自棄になった人たちも多く加わっている。その場で暴徒と化した人たちだからイスラミストによるテロ準備と違って、諜報部門も、事前のチェックができない。

また、今の時代、警察や機動隊が少し手荒なことをすると、必ず誰かがスマホで撮影して後からスキャンダルになるので、とにかく怪我人を出さないということで取り締まり側は慎重だ。警察官も、低賃金で過酷な仕事をしている人も多いから「黄色いベスト」の「草の根」の運動に共感を示す人も多かった。む

けれども事実上、放水と催涙ガスしか「武器」がないので、防毒マスクをして防水服をつけている「暴徒」には「効かない」し、暴徒の側は火焔ビンを投げたり鉄の棒やハンマーを持ち、殺意を露にする者すらいる。疲労困憊している警察が気の毒だ。「緊急事態宣言をして軍隊に助けてもらいたい」と言う声もある。


2000年代の中頃、大都市郊外のシテと呼ばれる低家賃大規模住宅群がゲットー化して移民の子弟を中心に若者たちが「暴動」を起こした事件があった。アメリカのFOXニュースなどではフランス中に「火の手」が上がったかのように報道し、フランスは「内戦」状態だという印象を与えたので、私まで、日本の人から心配されるということがあった。実際は、当然一部の地域だけで、若者たちは、インターネットで事件が広がることを目指して戦略的に派手な車の放火などを続けていたようだ。

ところが今回は、当初デモ隊がマクロン辞任を叫んでエリゼ宮に向かったこともあって、パリの中心が狙われた。クリスマス商戦真っただ中でデコレーションも美しいシャンゼリゼ、リボリ、オペラ界隈、凱旋門からトロカデロ界隈と、「テロが落ち着いて観光客が戻って来た」とほくほくしているパリが大きな打撃を受けた。

正直言って、ゲットー化した郊外で火の手が上がるよりも、特定の場所で自爆テロを受けるよりも、経済的にも外交的にもはるかに重大だろう。68年の5月革命以来のダメージだという人もいるが、学生の数働き少なく、最低賃金で働きながら週末にだけデモに加わる人もいる。社会の伝統やメンタリティを変えてしまうような運動ではない。

「黄色いベスト」デモは、政党や労働組合とは関係なく、車に備え付けられている「蛍光色の黄色いベスト」を身に着けることでだれでも集まることができるというSNS時代ならではの発祥だった。車の燃費増税に苦しむ人ならだれでも持っている「ベスト」によってスローガンを表明できることがこれまで「普通の暮らし」をしている人の参加のハードルを低くした。

問題は、だから、「代表者」「指導者」という存在がはっきりせず、政府との「話し合い」が困難なことだ。

運動が過激化してからは、首相官邸に赴く「黄色いベスト」のメンバーに内部から「裏切者」と殺害予告が送られたことでキャンセルする事態さえ起こっている。


最初は燃料費への課税への反発から始まった。フランスはエコロジー政策の主導というポジションをとっているので、空気を汚染するディーゼル車をエコカーに買い替えるよう税による圧力をかけていたのだけれど、車でしか働きに行けないような地方に住んでいる人々は、買い替えの予算もないし、燃費が上がると生活が苦しくなるばかりだ。

で、その後、プロフィールとしては、地方に代々住んでいるような「普通のフランス人」が、過去の「中流」から「貧困層」に落下したという人たちだ。失業者でなく代々の職業を持っている人でも、収入が減って暮らしがやっていけなくなる。それなのにここ30年、国はそれを黙って見過ごし、富裕層がさらに富裕になるのを助けているだけだ、という不満が爆発した。

だから一年半前に政権の座に就いたマクロンだけのせいではないのだけれど、マクロンは、それまでの伝統的な保守か革新の政党政治ではなく、保守も革新も中道も集めて「新しい政治」をする、改革する、と公約して当選した。けれども「改革」はまず、フランスの経済力を高めること、景気を高めること、スタートアップを応援することなど、「アメリカに負けない」ネオリベ資本主義に利する「改革」から手をつけたので、「庶民」「民衆」の失望が大きかったというわけだ。


もちろんこれはフランスだけの問題ではない。


「ここ30年、歴代の政府から見捨てられてきた」と人々が言うのはこういうことだ。

30年前というのは、社会党のミッテラン大統領による左派政権の一期目が終わった時だ。

その後、ミッテラン下でも首相は保守という「ねじれ政権」が始まった。

そしてそれは、「冷戦の終結」とも軌を一にする。

冷戦の間は、フランス共産党も健在だったし、自由陣営も、労働者を怒らせてはいけない、社会主義的(つまり国が富を分配する)政策を打ち出しておかないと、革命が起きたら大変だ、という抑制が働いていた。

けれども、冷戦の終結によって、「国家が生産手段を国有化するような共産主義は全体主義であり社会の繁栄ももたらさなかった」という認識ができたことで、後はもう、歯止めのない弱肉強食の「自由競争」がスタートしたのだ。それまで「庶民」を守っていた「規制」が次々と消えていった。だから、都市と地方の経済格差も大きくなり、資本を持たない中間層はどんどん「搾取」されていくようになった。

で、なぜ、フランスのような、「腐っても鯛」の近代革命によって生まれた共和国で伝統的な社会民主主義政策をとってきた国が、地方の小市民、庶民の生活レベルが落ちて苦しむことにもっと早く対応しなかったのだろうか。


それは、まさに、移民、移民二世、三世の失業率の高さ、住居のゲットー化、無法地帯となり麻薬のディーラーが横行し、という状態への対応が優先的な問題になってきたからだ。でも、ある意味で、ゲットー化したシテの内部は、「無法地帯」になってはいたけれど、「ヤクザは素人に迷惑をかけない」みたいなことと同じで、彼らが大挙してシャンゼリゼに繰り出して破壊行為に走るなどということはない。

でも、フランスで生まれた者はみなフランス国籍がもらえて、「共和国人民」として「自由・平等・同胞愛」を享受するべきだというフランスの「建前」からすると、ゲットー化や共同体主義を放置することはできない。逆差別も含めた様々な統合政策が試行錯誤されてきた。

そこにイスラムの問題が加わる。「政教分離」を国是としてきたフランスで、ムスリムの共同体や、ムスリムのアイデンティティを利用した他国からの影響を野放しにはできない。


さらに、アフリカや中東情勢の悪化から難民が押し寄せるという情況、また欧州連合の拡大と国教廃止によって経済格差のある元共産圏の東欧からの出稼ぎ労働者が膨大な数となったことも、「地方で生活レベルが下がっていく」庶民の声に政府が耳を傾けて対応などしている暇がないという現実を生んだ。


もっと大変なのは、テロリズムの脅威だった。

パリでテロが起き、緊急事態が宣言され、観光客の足が遠のく。それを何とかするために軍隊を動員して非常警戒が繰り広げられ、ようやく、「テロの脅威はアンダーコントロールだもんね」という触れ込みで2024年のオリンピックを招聘した。

どこかの国の「自分ちファースト」などと違ってフランスは「地球という惑星の未来を考える《意識高い系》」だもんね」というポーズもある。地方の庶民と車の関係などに思いは行かない。


フランスが、時代の波に取り残されないように、こんなにいろいろあくせくやっているうちに、代々普通に暮らしていけていたはずの「地方の庶民」は、グローバル経済の効率主義のせいで、地元の駅も病院も個人商店も消えていき、職を失ったり低賃金でぎりぎりの暮らしへと追い込まれていったのだ。

政府が目に見えるマイノリティ、ロビー活動ができるマイノリティ、外交問題にもなるマイノリティらの対応に追われているうちに、「目に見えないマジョリティ」の窮乏が進化してきたということだ。

イギリスがBrexitに追い込まれ、イタリアで五つ星運動が極右連立政権の座についたりしたのも、同じ流れだ。今回のフランスの「黄色いベスト」運動の激化が結果としてどの政党に利用されるのかはまだ分からない。


「生産性」第一の新自由主義経済の規制緩和によって庶民や地方が「下流化」して苦しむのは日本だって同じことだ。けれども、フランスに比べると、日本には移民や移民の子弟の住まいのゲットー化だの、それがイスラムという宗教と結びついている困難だの、アフリカや中東に近く難民が押し寄せる対応だの、テロの確率がマキシマムだのという問題のほとんどは存在しないか脅威の程度はずっと低い。

パリになくて東京にある大きな脅威は大地震で、その対策は大変だけれど、日本ではそれでも「災害の後の暴動」の確率は少なく程度も軽い。そして、「生き難い」人はたくさんいるだろうに、怒りの発火点が高すぎるような気がする。低所得者が生活保護家庭の人と連帯して反政府デモを申請して、世論の75%から支持されるなど想像もできない。ましてや表参道や銀座の高級店やら銀行が「暴徒に襲われる」のも想像できない。


それにしても、68年以来と言われるパリの中心地の破壊を見ると胸が痛む。

セネカは「怒り」を雪崩に例えた。雪崩はその勢いですべてを押しつぶして破壊するけれどその上で自分たちも総崩れになるのだ、と。「自爆テロ」と変わらない。「怒り」を暴力で翻訳してはいけない。そんなこと、2000年も前からセネカが言っていたのに。


ともかく、凱旋門が襲われて数々の歴史的な記念物が破壊された惨状をTVで見るにつけ、過去に「暴動」があったとされる「郊外」の移民の子弟の町がとても静かなのにも驚く。ムスリムの経営するお店も中国製のクリスマスデコーションを売り出しているし、パリの有名デパートから人々が退去させられた日に、移民の多い郊外のショッピングモールには買い物客がなごやかにそぞろ歩いている。

で、フランス国内のテンションが高まった週に、リオでのG20に出席していたマクロンには、また別の衝撃的な難問がふりかかった。(続く)


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by mariastella | 2018-12-06 00:05 | フランス

カルロス・ゴーンとフランス

明治期以降、日本は、英国、ドイツ、アメリカと一番強そうな国と組んで生きてきた。この流れでは、次なる国が中国なのは論理的だ。

古くは隋や唐などから始まって、ポルトガル、スペイン、オランダ、英国、ドイツ、アメリカを経てまた中国へと一周するのだともいえる。


でもこの中で直接「日本に攻め入って破壊や殺戮をした」のが最後の「アメリカ」だった。

また、この中で直接、日本の方がその国に直接攻め入って破壊や殺戮をしたのが中国だということを思えば、歴史のテンションは決して同じではない。

これらの国に比べると、フランスは「別口」だ。

ナポレオンに魅せられた幕末がフランス軍を受け入れた経緯があり、その後の普仏戦争でドイツに乗り換えた。

また、フランスは普遍主義の理念下で人種差別を否定する可能性のあることで、やり方によっては外交の同志ともなれたはずだけれど、何しろ国王を殺した共和国だから、天皇制のモデルとしては立憲君主国のイギリスを選ぶ方が無難だった。

で、いつの間にか、フランスは実用性のない「お文化」の範疇に繰り込まれていた。

だから19年前にカルロス・ゴーンが日産再建に乗り込んできたときには、「アングロサクソンならがまんできるけれど、フランス人にだけは言われたくない」という声が企業人からあがったことを、今も覚えている。


その「フランス人」がみるみるうちに「実績を上げた」のだから、驚きだった。

でも、その頃から、フランスから見ていると、カルロスというファースト・ネームからしてもう「フランス」のエスタブリッシュメントぽくない感じで不思議だった。


両親ともにレバノン系のブラジル人という出自は、見た目もそうだが何もかも「おフランス」とかけ離れている。

彼を問題なくフランス人にしているのは、フランスの共和国主義とフランスのカトリック文化の二つだ。

先祖代々レバノンのマロン派キリスト教徒だった。5世紀ごろのアンチオキアで初期キリスト教を広めた聖マロンから続く由緒あるキリスト教コミュニティで、シリアにも広がる。ISなどイスラム原理主義によって21世紀に最も迫害された宗教共同体でもある。

ローマ・カトリック教会と同胞関係にあって、レバノンという国を作って大統領をマロン派から選ぶというシステムを創るのに参与したのもフランスだった。自国の政教分離の建前とはかけ離れている。

で、カトリック典礼ということで、マロン派の先祖がやはりカトリック国であるブラジルに移民したのは不思議ではない。そして、ブラジル生まれのゴーンも、レバノンでイエズス会系の教育機関に入った時点から、「カトリックのフランス」ネットワークにすんなり入ったわけだ。

で、高校を出てからパリのプレパ(グランゼコール予備クラス:公立のものからカトリック系のものに代わる)を経て、エリートのポリテクニックへ進学した。ポリテクは本来士官学校なので、士官にならない者は別のグランゼコールや国立の博士課程にさらに進むことになる。ゴーンもその口だった。

そして、いったんそういう共和国エリートコースに乗ると、出自も宗教も関係がない。

同じポリテクニック出身のドレフュスがユダヤ人であることでスパイの嫌疑を受けた時、フランスの共和国主義はこのエリートをはっきりと擁護する側に回った。

ゴーンはと言えば、その後ミシュランに入社し、アメリカやブラジルでコスト・キラーとして名をなした(この時代にレーシック手術で眼鏡を手離して猛禽類のような眼光が有名になったという)ものの、1991年にミシュランの共同経営者に創業者の子孫であるエドアール・ミシュランが迎えられた時、ミシュランを去ることを決心したという。ゴーンより10歳下であるエドアールは、アメリカのミシュランでゴーンの部下として働いていたのだ。エドアールは父親の6人の息子の中から選ばれた。長兄は司祭で、エドアールの豪勢な結婚式を司式している。エドアールは、カトリックとしても、やはり理系のグランゼコールをでていることからしても、ゴーンと並ぶが、やはりフランス本土のクレルモンフェランの「先祖代々」(母方の先祖にはクラリス会修道院創設者もいる)の「血筋」は「新自由主義の成果主義」よりも上に立つ。


これを見たゴーンは「村の司祭の方がローマで司教になるよりもいい(=鶏口となるも牛後となるなかれ)」と言ったそうだ。で、1996年、ヘッド・ハンターによってゴーンはルノーの上席副社長へと引き抜かれて転進した。それと同時に、フランスの国籍を取得している。 

3年後に日本にやって来た時には、レバノン・ブラジルの国籍と共に三重国籍だったわけだけれど、「フランス人」としてはまだ数年目だったのだ。

あの時に「フランス人にだけは言われたくない」などと言っていた日本の企業人、相手は、「おフランス」ではなく、生き馬の目も抜く新自由主義経済原理主義の過活動の怪物だったことが分かるのに、長くはかからなかったと思うが…。

古き良き「おフランス」のカトリックでエリートでもあるエドアール・ミシュランの方は、2006年に、なんと40代の若さで、ブルターニュの島で、「自由」という名の漁船に乗っていた時に遭難して死んだ。

父親はその数年後に88歳で亡くなり、今のミシュランの経営陣にミシュランの姓を持つものはいないようだ。

カルロス・ゴーンとエドアール・ミシュランがアメリカで共に働いた数年のことを想像すると、感慨深い。


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by mariastella | 2018-11-21 03:46 | フランス

ミッシェル・セールと若者たち

ミッシェル・セールといえば私にとって非常に大切な研究をたくさん提供してくれた哲学者だ。

その彼が88歳で、20歳前後の若者たちの質問をいろいろ受けながら対話している記事を読んだ。

88歳の世代といえば世間では「IT弱者」(私もそうだけれど)の部類に入る人が多そうだけれど、そこはもともと数学者でもあるミッシェル・セール、インターネットはライプニッツの世界の具現だとしている。

なるほど、これまで人間の「発明」はいつも自然の事物や現象にインスパイアされたものばかりだった。魚を見て船や潜水艦を、鳥を見て飛行機を、星の運行を見て人工衛星を…。その中でインターネットだけは自然の中にモデルがない、不可思議だ、と言う人があった。でも、ミッシェル・セールによると、ライプニッツのモナド論、二進法、普遍数学などが「神」抜きで電子知能とインターネットに結実したという。

そんな彼に、若者たちは「今のように簡単に情報にアクセスできるのはかえって危険ではないか」と年寄りくさいことを言う。

ミッシェル・セールが持ち出した回顧談はこうだ。

自分はロ・エ・ガロンヌに住んでいた。何か調べたいものがあると、午後5hにでる汽車にのって翌朝9hにパリに着き、国立図書館に行って登録するのに列を作り、読みたい本を頼んで1-2時間待たされてようやく出してもらった。それが目当ての本でなかったら、またやり直しだ。

それが今では自宅ですべて閲覧できる。

君たちは私が往復の電車の中でゆっくり思索していたと思うだろう。そうとは限らない。

スピードが思索を妨げるとは思わない。逆に、より多くの考えを結びつけることに役立つ。

ほんとうにそうだなあと私も思う。

もうほとんど大学図書館にも行かないで済む。

論文と名の付くものや大学の紀要のようなものはほとんどすべてネットでアクセスできる。

本を書いている時に人名や日付についてちょっとした確認をしたい時にも、昔は「百科事典」をどっこいしょと本棚から降ろしていた。

フランスにいるので、フランス語で読んだ言葉が日本の「業界」で一般的にどう訳されているのかも調べられなかった。日本での先行研究があるのか、関連書がどのくらいあって誰が何を書いているのかも分からなかった。

有名だった「京大式カード」を使っていた時代もある。

大切なのは情報リテラシーと、知の組み合わせなのだろう。
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by mariastella | 2018-11-18 00:05 | フランス

95歳のオディールに会いに行く

前に書いた記事に貼り付けた女子ベネディクト修道院の話がある。

この修道経済の話をその記事でもふれている94歳の女性オディールに送ったら、非常に興味を持って、すぐに『ラウダート・シ』を手に入れ、いろいろ考えて始めた。その後で、パリの一人暮らしの自宅で転倒し、長いリハビリを終えた後、ヴェルサイユの老人ホームに入ることになった。彼女がこの件についてもう一度じっくり私と話したいという。

このブログで前にインタビューした「新任司祭」は彼女の孫の一人で、ビデオに出てくるベネディクト会修道女の弟にあたる。


目も悪くなっている。一対一でないと聞き取りも不自由なので、11/11の午後に彼女に会いに行くことにした。ヴェルサイユでブリジット・マクロンが各国首脳の伴侶を招いた昼食パーティ(首脳たちはエリゼ宮)をしているので交通規制も多いしメトロと電車を乗り継いでいく。


修道会系のホームで清潔で静かで設備もいい。

オディールは95歳になったばかりだった。

わたしたちの話はその日の昼間にあったマクロンの演説の分析とマクロンの大統領としての評価についてになった。

オディールは記念式典のテレビを他の居住者たちと一緒に見ていたそうだ。(その時間は主要チャンネルはみなこの実況だった)

で、彼女がショックを受けたのは、他の居住者がマクロンの言葉などに一切関心を示さない様子だったことだった。「ここにいる人たちはみんな自分の『小さな健康』のことしか考えていない」という。

この言葉にニーチェの「大いなる健康」のことを思い出してしまった。(この記事

「私もここにずっといたら一年後には頭の中が自分の小さな健康のことだけになってしまうのかと思うと怖い」という。

90歳にもなれば、いや、60歳でも、人は少しずつ老化するのだから、小さい健康問題は際限なく出てくる。

解決法のある問題はそれを適用して解決すればいい。解決法のない問題は、ある意味ですでに「問題」とは言えない。だとしたら、「小さい不都合」や不便や劣化は、それにフォーカスしないである程度放置しながら、雑然としたままで、自他の境界や時系列が曖昧な「大いなる健康」に関心を移していくのがいいのだろう。

彼女は先の大統領選でマクロンに賛同せず、かといって他の誰も信頼できなかったので棄権したそうだ。

それでも、11日のマクロンのパフォーマンスは評価すると言っている。

彼女が第二次大戦の経験者として平和の構築に何が必要と思うかと聞いてみた。

彼女は、1923年生まれで1943年にはパリでラテン語の学生だった。代々の貴族の家系の女子学生、でも生まれた時からナショナリズムの台頭していく世界にいたので、1943年には普通に「ペタニスト」だったのだそうだ。で、ペタン政権のユダヤ人政策を知った時に、「自分はユダヤ人ではないから捕らえられない」という現実に目が開いて、すぐにレジスタンスに加わったという。 明快だ。

私は少し前にこのブログに書いた兵士の手紙の話をした。

結局、「自分以外の他者の身になって考えることができるか」ということに尽きる。

「小さな健康」はそれを排除する。

彼女のおじいさんがイスタンブール総領事だったことや夫はダブリンのトリニティカレッジ出身のエンジニアだったことも知った。1947年、彼女の実家に滞在していたアイルランド女性がアイルランドに帰り、誘ってくれたのでアイルランドに行きたくなった。親に反対されたので、ラテン語の家庭教師をして往路だけの貯金をしてダブリンに行った。そこに、フランス人青年が、研修で忙しい間フランス語の家庭教師を代わってくれるフランス人はいないかと電話をかけてきて、オディールと話し合うことになった。青年はオディールとの電話の話だけで、会ってすぐに求婚したという。

過去と未来をつなげていくために知性をどのように有効利用できるのか、物理的な不自由さやハンディができた時にそれをどのように別のことで補っていくのか、ということについても話せた。オディールは私の母よりも年上だけれど、まるで姉妹のように感じる。自分の仕事だの子育てだのでせいいっぱいの「現役世代」よりもずっと近い。この友情が続きますように。


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by mariastella | 2018-11-16 00:05 | フランス



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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