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L'art de croire             竹下節子ブログ

フランスのライシテについて その5

Q : 1801年の和親条約は、ローマ教会とだけでなく、プロテスタントやユダヤ教にも開かれていきますね。多様性を認めることです。それなのに、その後の共和国主義は、この解決策を捨てて政教分離に特化していくことになりましたがその理由は?

A : 共和国主義派は、和親条約の状態が共和国にとっての大切な原則に反するのではないかと批判的でした。ローマ教会の方も、工業化する進歩の時代を厳しく弾劾していたので、対立が深まりました。レオ13世は1892年にフランスの第三共和国を認めましたが、妥協したわけではありません。
一方で、フランスの方は、宗教の自由を認めたことで、カトリシズムが支配的になり、プロテスタントや無神論者や無宗教の人々を格下に追いやりました。政治と宗教を分離することは啓蒙の追求であり、その動きは20世紀初頭に向かって高まっていきました。

Sekko : 19世紀から20世紀にかけては、確かにカトリックと政治、ナショナリズムが結びついた。普仏戦争の敗北後にモンマルトルでのサクレクール寺院の建設が「公的意義がある」とされて開始され、「救国の処女ジャンヌ・ダルクが1909年にローマ教会から列福され、第一次世界大戦後の1920年に列福された。
19世紀には、パリのバック通り、ルルド、サレット、ポンマンなどの「聖母ご出現」が次々に認められた事実も興味深い。

# by mariastella | 2026-02-10 00:05 | フランス

フランスのライシテについて その4

Q : その後どのような道をたどっていったのですか?

A : ナポレオン一世の時代になって、教会や、他の宗教も含めての国家との協働という考えがまた始まりました。政治の外側に追いやられているカトリック教会を受け入れなおす必要がありました。社会の安定のためには必要だったのです。また、哲学的にも、宗教をまったく抜きにした社会の「道徳」規範によって人々を結び付けることは考えられない、ということになったのです。
ナポレオン側近の偉大な法律家ポルタリスは「国家は盗人の腕を止め、宗教が盗人の心を改心させる」という言葉を残しています。

Sekko : Portalis はナポレオン政府の大臣で、アンシャンレジームの法体系とフランス革命の精神を統合したナポレオン法典の主要な起草者で、ローマ教会とのコンコルダ和親条約の推進者でもあった。法の精神を文書化するのはフランスがローマ法、教会法からの伝統から受け継いだものだった。

# by mariastella | 2026-02-09 00:05 | フランス

フランスのライシテについて その3

Q : フランスにおける政治と宗教の分離のコンセプトはどのような道をたどりましたか?

A : 最初の段階では、フランス革命政府は、国家とカトリック教会の協力関係を認めていました。それが聖職者の市民化です。革命の目的の一つは、カトリック教会をローマ教皇から離して国家宗教とすることでした。カトリック教会はその考えにもちろん反対しました。それが19世紀にずっと続いたふたつのフランスの戦いの始まりです。
フランス革命は1792年から1794年までカトリックの政治的迫害を続けました。国家と教会を分けるという条約は1795年に成立しましたが、対立を解決することはできませんでした。

Sekko : これについては連載しているウェブマガジンで少し書いています。


# by mariastella | 2026-02-08 00:05 | 宗教

フランスのライシテについて その2

Q : ライシテは、フランスだけにある独自のコンセプトだと見なされることがよくありますが、今起きているのはそれですか?

A : いいえ。1905年の立法の前には、メキシコやアメリカのモデルが多く参照されました。そこでは「分離主義」が称揚されています。ライシテとは、言葉はフランス以外では必ずしも使われていなくても社会のオーガナイズの原理であり、フランス以外にも通用する考えです。
アングロサクソン圏では「secularism(世俗主義)」という言葉の方が好まれます。
この言葉の違いによって、アングロサクソン圏では、それが社会全体の動きに結びつきますが、フランスを含むラテン系諸国では国家による積極的な政策という形をとっています。

Sekko : ラテン系諸国はカトリック教会をベースにして形作られてきたから、「政治権力」と「教会の権威」というのが密着もしていたし、それ故の確執、戦いもあったから、主にカトリック教会を想定した政教分離であったわけだ。
アングロサクソン国ではプロテスタントが発展したので、社会における「住み分け」などの方向に進んだわけだろう。

# by mariastella | 2026-02-07 00:05 | フランス

フランスのライシテについて その1

昨年のクリスマス前の「待降節」に、ある市役所が建物の中にプレゼピオ(いわゆる「馬小屋」で、赤ん坊の姿のイエスの周りにヨセフ、マリア、動物、羊飼いなどを配する飾り)をしつらえると「ライシテ(政教分離)」に反していると抗議されて取り下げた。それは「entrisme」であるという声が上がったのだ。
entrismeとは日本語訳を見ると「潜入工作」とあるが、要するに、市役所のような公共の場所に、イエスの誕生シーンを置くことで、市民を密かに洗脳するというか、キリスト教のメインのシーンのひとつを知らないうちにインプットするのは政教分離に反しているというのだ。
これは特に今世紀に入ってから浸透してきたイスラム兄弟団などによるフランスのイスラム化を目ざすイデオロギー集団の発想で、昔は目立たなかったラマダンやイスラム・スカーフを少しずつ「見える」化してきたのは、まさにentrismeだった。

でも、キリスト教のシンボルについてはentrismeなどあり得ない。
政教分離法以来、国や自治体の所有になったとはいえ、十字架を頂いた教会がそこかしこにある。ゴシックやネオクラシックのカテドラルはインバウンド客を集め、観光立国フランスにとって大切な財産だ。クリスマスはもちろん、カトリックのカレンダーによる移動祝祭日である復活祭やイエスの昇天、聖霊降臨は祝日だし、8/15の聖母の被昇天、万聖節の11/1なども祝日になっている。
イエスの生誕のクリスマスはサンタクロースの商業主義を別にしても、日本の除夜と新年と同じく家族が集まる機会になっている。(友人たちとのパーティなどは大晦日。クリスマスが、実家で集まるタイプの家族の日)
その後の、公現祭のガレット、2月がイエスの「お宮参り」のクレープ、復活祭はチョコレートと、教会に行かなくても、食を楽しむフランス人の食文化と結びついている。
要するに、キリスト教はすでに風俗や風景の一部だから、密かに洗脳、などという必要がないし、市役所に飾られた「馬小屋」を見たことがきっかけでカトリックに改宗する人などいないだろう。いや、イスラミストにとってはリスクなのだろうか。

フランスはもともとゴール人、ケルト人にローマ人、ゲルマン人が多様に混血してできた国だった。パリはカトリック神学の中心地のひとつだったし、いつもユニヴァーサリズムを(少なくとも建前としては)掲げてきた。移民も多く受け入れ、ルーツや人種の異なるカップルの数もヨーロッパで群を抜いている。

第二次世界大戦後の地政学的状況から、政治的なユニヴァーサリズムは大きく揺らいだ。

旧植民地からを含む「移民対策」として、

ドゴール時代は、移民ひとりひとりに対して、共和国のユニヴァーサリズムに同意する「assimilation 同化政策)がとられた。

ミッテラン時代に、それが、移民を出身国や文化の違うそれぞれのグループとして受け入れる「integration 統合」となり、アメリカ化したサルコジ政権以来、すでにそれぞれの規範を持つ共同体が自由に活動できる「inclusion」へと変化した。グローバリズムの一環だ。

そういうアメリカ型の「ポストフランス」を掲げるグローバリストと、かろうじて残っているフランス風の歴史や文化やユニヴァーサリズムを意識して排除する「アンチフランス」の勢力とが手を組みつつあるのが今のフランスの状況だと言えるだろう。

共和国とカトリック教会との対立を終わらせるために120年前に導入された「ライシテ」の考えは、はたして今もなお機能しているのだろうか?

高等研究所で「ライシテの歴史と社会学」を教え、「現代フランスの宗教」「若者たちのライシテ」の著書があるフィリップ・ポルティエ(Philippe Portier)がカトリック・メディアのインタビューに答えたものを少しずつ読みながら意訳してみる。

(LA VIE No 4188 / 2025/12/8)

Q : 1905/12/9に成立した政教分離(正確には政府とカトリック教会の分離)はフランス史にとって重要なできごとでしょうか?

A : はい。19世紀以来議論されてきた「共和国のフランスとカトリックのフランスという二つのフランス」問題に決着をつけたからです。当然のものとして受け入れられていたそのライシテが、フランスにおけるイスラムの台頭によって、1990-2000にかけて再び議論されるようになりました。フランス革命以来の争点だったものが、社会におけるイスラム教のあり方について再燃したのです。
ライシテ法の条文の解釈をめぐって、「良いライシテ」の規範について議論されたわけです。(続く)



# by mariastella | 2026-02-06 00:05 | 宗教



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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