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L'art de croire             竹下節子ブログ

シャルル・ペパンの役に立つ哲学  その9 (これで終わりです)

Q : 自分自身になるために必要なものは、勇気以外には何がありますか?
時間? 自分を信頼すること?

A : 人生全部です! 我々は、他の人をその人の人生の終りにしか裁いてはいけない、というサルトルの言葉が好きです。人とは、生きてきたすべてのアクションの総計だからです。ですから、人はいつでも、目指すところを変更することもできます。それまでのやり方の過ちを正すこともできます。ある時点での「自分」は、自分の出発点にはいません。核にある本当の自分というのはありません。誤った「セルフ・デベロップメント」の言説の問題はそこにあります。
「あなたの奥に隠れていて他の人には見えていない本来の自己はすばらしいものです」というやつです。信じたいですが、間違っています。私の奥には、絶対の価値に基づいた確固としたものなどありません。時間をかけて、存在すること、創造すること、この世での冒険のリスクを知って進むこと、を生きなければなりません。もっとも大切なのは、私と他者、私と世界との関係性において自分がその都度決定していくことです。

Q : ニーチェは「自分がそうであるものになれ」と言っています。

A : そのフレーズはどのようにも解釈できます。本来の自己のようにすでにある自分になれ、というのではなく、自分の生きてきたものの中に、自分が何かを見ることができる、と私は思います。私は「何かである」よりも「何かになる」が好きです。

Sekko : 「真の喜びが力を与える」という記事タイトルにつられて少しずつ読んだわけだけれど、そして、カトリック雑誌の記事だったので「カトリック」のタグもつけたのだけれど、思っていたものとずれていた。哲学者というのが強調されていたので、「哲学」のタグもつけたけれど、古今の哲学者の引用がすらすら出てくるところは、いかにもフランスの「哲学の先生」という感じだ。
肝になるのは、いわゆる「自己啓発」、「本当の自分」探し、「自己肯定」のような言説を否定して、「自分」とは現実の世界や他者との関係性の中で少しずつ築いていくものだという意見だ。
確かに、「羅針盤」がなくなったような世界で自分の中に隠れている「本来の自己」を探して自己実現を果たそう、という言説や、無理筋な規範や抑圧、差別、上下関係などから「解放」されたポジティヴな境地に至るには、という言説が一世を風靡したことがある。
そのような大きな流れの傾向に反して、自分にとってネガティヴな事象をありのままに受け入れて、その中で、人生で得た「知恵」を指針にしながら、気分や行動における「過剰」に陥らないように絶えずバランスを取りながら、修正もしながら生きていこう、というのが趣旨だろう。

人生について常に思いを巡らせてきた哲学者たちや宗教者たちの言葉のおかげで、そのバランスのとり方がうまくなるかもしれない。バランスをとりながら「進む」というのが必要で、自分の立場を固持しろというわけではない。その中で、「長きにわたる判断の過ち」を認めるには勇気がいる。

結局、このインタビューは私と同じようなスタンスを表現しているわけで、その意味ではカトリック雑誌に取り上げられていた理由も分かる。

(このインタビュー記事はこれで終わりです。)

これがシャルル・ペパンの本。



# by mariastella | 2026-02-01 00:05 | 哲学

シャルル・ペパンの役に立つ哲学  その8

Q : 自分自身になるためには勇気が必要だ、とお書きになっていますね。

A : フロイトは「文明の不満」の中でそれをとてもよく説明しています。すべての社会において、その社会の存続のためにはさまざまな規範が重要です。文明でも、家庭でも、企業の中でもそうです。そして社会の秩序にとって良しとされているものは特定の個人にとって必ずしも良いものではない。だから、既成の順応主義にそぐわない個人の特性を打ち出すには勇気が要ります。こんな会議には協力しない、こんな本は書かない、こんな関係のカップルではいたくない、などと心の声が聞こえる時も、じゃあ、どうするんだ、と言われた時に自分のとる道を示すことができるのか。自分の独自性を示すのには勇気が必要です。ベルグソンは、パーソナリティというのは生きてきた歴史の結果だと説明します。「私は自分の人生観にとっての納得のいくまで自分のやり方で物事を処していく」と決心するのは勇気あることです。

Sekko : 社会の「規範」が自分の信念に合致しないから拒否するというのではなくて、自分から見てのその時点での「両極」の「中道」を探りながらその都度決定するということだろうか。人生観というのは少しずつ築き上げるものだから、固定した「信念」に陥らないように、視点を常に関係性においておかなければならない。
でも今の時代は、固定した信念だの自分の独自な人生観などそもそも持てなくなっているかもしれない。社会の規範どころか、SNSで垂れ流されるバイアスだらけの「規範」だの、AIが合成する「規範」だのに踊らされて、両極がどこにあるのかももう分からないから、自分のやり方でバランスを保つという感覚も失われるのではないだろうか。

# by mariastella | 2026-01-31 00:05 | 哲学

シャルル・ペパンの役に立つ哲学  その7

Q : 勇気とは生まれつきのものですか、それとも努力すれば身につくものですか?

A : 勇気の遺伝子というのは存在しません。とはいえ、勇気がある、という性格の傾向はあります。個人の生活史の中で得られるものです。ある時期に、自分の才能の限界を知って、弱さも受け入れるということです。自分を知ることで、自分のできること、助けを必要としていることを知る勇気につながります。

Q : 勇気とはひとつの絶対価値なのでしょうか。

A : アリストテレスによれば、勇気とは二つの過剰のちょうど真ん中にあるものです。怯懦と無謀という極端な二つです。怯えすぎず、軽率、無鉄砲でもないという「加減」を学ぶことです。リスクを意識している勇気と、闇雲に立ち向かうこととを混同してはいけません。すべての大きな徳とは中道にあるのです。

Sekko : 今度は二コマコス倫理学?
最高の人徳とは中庸の徳というのは孔子だし、お釈迦様も6年も座禅苦行して結局、自我を捨てるという自然体にたどりついたし、極端がいけないというのは、古今東西の教えかもしれない。
本質は「間」に宿る、といういわゆる「動的平衡」に近いのかもしれない。
リスクがあっても、全体としては動的平衡を得られる行動を選択して進む、というのが「勇気」というわけだろうか。極端を避けるというのは自分を中心とした利害損得を目指すのではなく「利他」に通じるということにもなるのだろう。


# by mariastella | 2026-01-30 00:05 | 哲学

シャルル・ペパンの役に立つ哲学  その6

Q : 自分の弱さを受け入れることは力の証しですか?

A : 自分の弱さを受け入れて、一人では解決できないといって助けを求めるのには勇気が必要です。あなたが必要です、その「あなた」は療法者であったり「友」であったり家族であったりするでしょう。医師や精神医は、治癒に向かうための初期の障害となるのは、患者が自分だけで問題を解決しようとすることだと言っています。自力で戦うという時には「勇気」の場所を正しくとらえていないのです。そもそも私たちは生まれてから一度もひとりだったことはありません。もしひとりであれば生きていないでしょう。私たちには援助が必要です。勇気とは、自分が不完全であることを認めることです。でも多くの人は自分の意志で生きるというイデオロギーの中で育てられています。意志の力で、困難に打ち勝つレジリエンスを発揮して自分で解決することがすばらしいとされています。

Sekko : うーん、何か別の言葉を期待して読み始めたので、私にとっては普通かなあと思ってしまう。今まで戦争も災害も体験せず、個人的な事故や病気ならすぐに他に助けを求めてきたし、助けてくれる人が周りにいるのが当然という恵まれた環境にいたからかもしれない。人生のはじめに、「女の子」「妹」というポジションで完全に守られて甘やかされてきたので、その幸運は、私に助けを求めてくれる人の少しでも役に立つために与えられてきたのだろう、と理解するようになってきた。
でも、たしかに、明らかに私より弱い人を助けることより、自力、自助を要求されて苦しむ人たちがそんなにたくさんいるとしたら、役に立つのは簡単なことではないのかもしれない。

# by mariastella | 2026-01-29 00:05 | 哲学

シャルル・ペパンの役に立つ哲学  その5

Q : ご著書は『力をどこに見出すか?』というタイトルですが、「力」はネガティウなエネルギーになりませんか? 強い者が法をつくる、など。

A : 確かに、一生他者を踏みつぶして成功する人はいます。でも私にとって他人を潰す力は私を遠くへは導いてくれません。私は習合的な力、関係性の力を主張しています。関係性、聞く力、信頼の中に見出す力があります。

Q : 自然との関係性の質の中にもありますね。

A : 世界は力を内包していると考えられます。心を開いて自然の中を歩いている時や、瞑想をする時も世界から力を受け取る気がします。ヘンリー・ソローは、「私が四季に友情を感じている限り、人生に重荷はない」と書いています。ストア派の言うような宇宙エネルギーやベルグソンのいう自然の中にある霊的エネルギーの存在を信じなくとも、誰でも、悩みや重荷を抱えている時に自然の中を散歩する時にそれから解放されるという体験があるでしょう。今この瞬間に起きていることを理解するためには「生命」の全体を生きなければなりません。

Sekko : すぐ他の作家や思想家やらの言葉を「引用」するのはフランスの「哲学教師あるある」という感じだ。バカロレアの哲学筆記試験では、自分の意見だけ展開しても高評価されない。必ず「引用」が必要とされるからだ。(哲学の試験を受ける生徒へのアドバイスとして私は、もし引用が思い浮かばなかったら、それらしい言葉を考えて、紀元前3世紀の中国の哲学者XXの言葉、だとか書いておけばいい、と言ったことがある。確認する教師もいないだろうし、内容でなく形が評価されるからだ。)

(続く)

# by mariastella | 2026-01-28 00:05 | 哲学



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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