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L'art de croire             竹下節子ブログ

キリスト教芸術はエクス・ニヒロではない その5

Q : カタコンベなどでの画像が持つ役割は?

A : ローマやDoura-Europos画像は要理や神学と結びついていた。画像の教育的価値はローマ・カトリックで存続し、オリエントのような礼拝の対象とならなかったが、どちらでも、スタイルの変化が見られるようになった。

Q : 歴史的なきっかけは?

A : 313年のコンスタンティヌス帝によるキリスト教の公認だ。ローマ帝国の首都はコンスタンティノープルにうつり、キリスト教は東ローマ帝国の宗教になった。皇帝はイエスのゆかりの地にバジリカ聖堂の建築を始めた。巡礼の地の聖堂にフレスコ画やモザイクで宗教画が描かれ、同時に、迫害されていた頃の殉教者たちの「聖遺物」崇敬が始まった。これらの「画像」の中で、「肖像」としてのイエスの絵が生まれた。

Sekko : 3世紀初め、殉教者たちの記憶はまだ新しい。肉体と魂が共に創られたとするキリスト教の中で、天に召された魂とこの世を結びつけるのが遺骸や遺骸の一部である「聖遺物」であり、聖遺物崇敬が生まれた。殉教聖人らの「生前の肖像画」は「聖遺骸」や「聖遺骨」を補完するものとして必須のアイテムとなっていった。イエスの「肖像」の登場がその一環として現れたというのは興味深い。


# by mariastella | 2025-01-14 00:05 | 宗教

キリスト教芸術はエクス・ニヒロではない その4

Q : 十戒の画像の禁止はどうなりましたか?

A : 事実上消滅した。教父たちは画像についてほとんど議論していない。異教徒の戦いにおいて、公会議はメシア論、三位一体論に集中した。

Q : ローマのカタコンベの相当するものはオリエントにありますか?

A : ある。ユーフラテス河のシリアの古代都市Doura-Europosで、1920年に2,3世紀の礼拝所がいくつか見つかった。異教の神殿が複数、シナゴーグとdomus ecclesiaeという初期教会が一つずつ。いずれも壁に図像が施されていて、ローマ帝国下でユダヤ教もすでに変化していたことが分かる。
教会では、洗礼の部屋が見つかった。そこに、232年のものとされる部屋の壁にペテロが溺れるのを救うイエスや病人を癒すイエスの絵が描かれている。ごく単純な絵で、イエスには光背もついていない。ユダヤのシナゴーグの絵と比べると、キリスト教の共同体にはまだアーティストとしての画家が存在していないことが分かる。

(続く)

# by mariastella | 2025-01-13 00:05 | 宗教

キリスト教芸術はエクス・ニヒロではない その3

Q : シンボルが画像になったのはいつから ?


A : 二つの発見があった。18世紀から発掘された3世紀のローマのカタコンベの壁。

イエスよりも、旧約のヨナが巨大な魚の腹に呑み込まれて三日後に吐き出されたという再生の図など。イエスは、麻痺患者を癒したなど奇跡の治療師のような描かれ方だ。

あるいは、異教の図像の影響を受けて死者の魂が牧歌的な場所で休息する場面とか、仔羊を肩に乗せた牧者「criophore」の姿にイエスを重ねる図などだ。


sekko : 古代ギリシャのクリオフォロスは、雄羊を肩に担いだヘルメスなどが起源。疫病の流行時に羊を肩にかついだ神が都市の城壁をめぐって都市を救うなどの神話。ギリシャでは雄羊を犠牲に捧げる、キリスト教では迷える仔羊を救うという方向転換があるのは興味深い。


(続く)


# by mariastella | 2025-01-12 00:05 | 宗教

キリスト教芸術はエクス・ニヒロではない その2

Q : 画像禁止の根拠は ?


A : 一神教が偶像崇拝を警戒したことだ。イスラエルはセム系の宗教に囲まれ、神像の礼拝があった。ヤハヴェも地域の神のひとつだったが出エジプト以来、ユダヤ人にとって唯一神になり、他の神との差異性を確保するため図像を禁じた。「超越」神とされているので、人間のイマジネーションでは捉えられない。

初期キリスト教も同様で、異教と差異化するためにイエスの図像をつくらず、迫害もされていたので目立たない必要があった。お互いの確認のために十字架、錨、魚(ギリシャ語ichthusが、神の子、メシア、イエスキリストを指す)などのシンボルが使われた。2, 3世紀の個人の家の床にこのようなモザイクが発見されている。アクセサリーも見つかっている。


(続く)


# by mariastella | 2025-01-11 00:05 | 宗教

キリスト教芸術はエクス・ニヒロではない その1

ヴィオラとギターのコンサートを月末と2/8に控えていて、じっくり本を読むひまがないのに、三本の興味深いインタビュー記事を見つけた。
一問一答で、直訳ではなく意訳でメモしていく。

すべて LA VIE No 4136 (2024/12/19-26号)より。

まず、L'art chrétien n'apparaît pas EX NIHILO
東方キリスト教の研究者ラファエル・ジダエ(Raphhaëlle Ziadé)がキリスト教のイコノグラフィについて語るもの。(プチパレのビザンチンコレクション責任者)
EX NIHIROの意味はこれ。

つまり、神が宇宙を虚無から創造したとしてもキリスト教の芸術そのものは虚無から生まれたわけではないというテーマだ。

初期に禁止されていたキリストの図像は、その後、キリスト教にとって重要な役割を果たすことになる。容認され、奨励され、また禁止され、最終的に許可されたキリスト教の画像は、伝統と革新のどちらにも軸足を置くという。

Q : 初期教会ではイエスはどのように表現されていましたか?
A : キリスト教の最初の200年間、画像のない宗教だった。(最新の考古学に依拠)
パウロは当初、ユダヤ人にキリスト教を伝えた。ユダヤの神は図像を禁止している。

出エジプト記/ 20 04

あなたは自分のために彫像を造ってはならない。上は天にあるもの、下は地にあるもの、また地の下の水にあるものの、いかなる形も造ってはならない。


これは旧約世界に浸透し、神を見ることは死につながるとさえ思われた。

実際、神の栄光を見たかったモーセに神はこう答えていた。


出エジプト記/ 33 20

さらに言われた。「あなたは私の顔を見ることはできない。人は私を見て、なお生きていることはできないからである。」


シナイ山でも、モーセが出会った神は「姿」ではなく、光であり声だった。


(続く)


# by mariastella | 2025-01-10 00:05 | 宗教



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

by mariastella
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