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L'art de croire             竹下節子ブログ

ベネディクト16世から何を受け継ぐのか

1/2の朝、カメルーンのヤウンデ大司教とオーストリアのウィーン大司教がベネディクト16世(以下B16)について語っているのを聞いた。
思えば、カメルーン訪問の往路の飛行機(復路にしておけばよかったのに危機管理なし)でジャーナリストの質問に答える中で「エイズと避妊具について」のコメントを切り取られたせいで、その後のアフリカ訪問の間中B16はずっと叩かれっぱなしだった。
今回カメルーンの司教がB16世を評価しているのを聞いて初めてほっとした。
ウィーン司教は、B16が語学の天才だけでなくフランコフィル(つまりフランスびいき)だったと、自分も流暢なフランス語で語っていた。
特別秘書のゲオルク・ゲンスヴァインは昨年6月にドイツでB16がほとんど発話できなくなったことを語った時涙を流したのだそうだ。

私がB16のファンになった理由の記事は、サイトに載っていた。今読み返してみると、彼の教皇時代というのは、カトリックのヨーロッパ時代の最後の時代ということで、ドイツ人であったことも含めて、シンボルと時代の流れと、何が真に普遍的なものだったのかを大いに示唆してくれる。
今B16を語ることは、ノスタルジーでも復古でもなく、また遠い世界の遠い宗教の話でもなく、信仰と、相対主義蔓延の世界における宗教的病理について考えるためにも、とても参考になる。

で、私自身が読み返しやすいように、数回にわたって彼に関する記事をここにコピーして、コメントをすることにした。
(明日はコンサートのお知らせを入れるので明後日の記事からになります。)

下にはこのブログ内での参考記事の続きをリンク。
(記事内のリンクはサイトのものなので後でコピーします。)



# by mariastella | 2023-01-03 00:05 | 宗教

ベネディクト16世の普遍主義

ベネディクト16世が帰天したことについて、彼が教理省長官ラツィンガーとして強面の印象を与え、ピウス10世会や解放の神学などにまつわるいろいろな批判を浴びてきたことについてすでに記事を書いてきたかと思ってこのブログの検索で「B16」をリサーチしたら、あまり出てこなかった。
私が彼のファンになったのは、ラツィンガー時代のドイツ人ジャーナリストとのインタビュー本での誠実さ、謙虚さ、無防備さ、知性と感性のバランスに感動してからだった。ヨハネ=パウロ二世のように「空気を作る」タイプでなく「空気が読めない」ことで誤解も受けていた。

でも、ナチスドイツの時代に生まれて、祖国のどん底も経験してきたことから、イデオロギーや善悪二元論や正義の押し付け、敵の殲滅などを遠ざけて、すべての人間が被造物として神に愛される同胞である「普遍」(カトリシテ)を心から望んだ。
だから、自分も関わった第二ヴァティカン公会議で、カトリック教会が宗教として信じられないような、救いの普遍性を明記したことに心から喜んだ。それまでは例えばキリスト教を信じない異教徒はもちろんキリスト生誕以前に生きた人や、キリストの存在を知らぬ異文化圏の人間は「天国」に行けない、救われないという言われ方が標準だった。それなのに、宗教システムとしてのキリスト教を知らない世界にも神の救いは届いていること、別の形で救われることを明記したのだ。
思えば、カトリックのスコラ神学を打ち立てたトマス・アキナスも、アリストテレスの自然神学をキリスト教化したのであって、キリスト教成立以前にも、別の形で聖霊の働きはあったわけだ。
20世紀前半のフランスでアクションフランセーズの動きが生まれたころ、ヴァティカンが徹底的に破門した時代がある。その理由を丁寧に説明することなく、一方的に断罪し、その後また、今度もこれという謝罪もなくそれを解除した。
今もアクションフランセーズの流れはあって極右、超保守、反共和国主義などのレッテルを貼られているのだけれど、ラツィンガーは彼らが迫害されていた時代を批判していた。

思えば、ヨハネ=パウロ二世によって破門されたルフェーブル司教のピオ10世会にも手を差しのべたのもB16だ。そのことやラテン語ミサの許容などで、彼は反動的な超保守のレッテルを貼られたわけだけれど、彼の中では逆だった。ヴァティカンが、ある動きを「異端」だとか「敵」だと認定して切って捨てるたびに、カトリックは色あせていく。第ニヴァティカン公会議で、キリスト教諸派との一致を目指しただけでなく他宗教を断罪することも捨てたはずのカトリックが、カトリック内の「第ニヴァティカン公会議反対派」を異端と見なすのでは、「救いの普遍性」をうたった公会議精神に悖るのではないか。そう思ったからこそB16は教条主義者にも手を差しのべたのだろう。それなのにB16自身が融通の利かない守旧派という印象を与えてしまった。
他のところにも書いたことがあるけれど、私にとって彼の好感度がアップしたのは、彼がピアノを弾くところを撮影したビデオを見た時で、カメラに映されていることも知っているだろうに、ピアノに向かってすぐに、何のためらいもなく、ごく自然に、大きな重そうな教皇指輪(印章としても使われる)をひょいと指から外してピアノの上に置いたのを見た時だ。私自身が楽器演奏時に指輪や腕輪や腕時計をできるだけつけないようにしているので、なんだか、すごく共感できた。
教皇に選出されたことをギロチンの刃が落ちてきたかのように言ってしまうくらいにある意味で無防備、不器用だったので、文脈抜きで恣意的に切り取られる「失言」も招いたし、ヴァティカン内部も超複雑、高位聖職者のネットワークも魑魅魍魎の住む世界になっていたりする。だから、簡単な読み解きなど到底できないのだけれど、とりあえず、B16へのシンパシーを持ち続けたまま、彼の魂の平安を祈るばかりだ。






# by mariastella | 2023-01-02 00:05 | 宗教

新年がより良き年になりますように

新年おめでとうございます。

去年亡くなった方のことがいろいろ思い出されます。
また新しい年を迎えられた私に求められている役割に忠実に生きていきたいです。

さて、これを書いているのはまだ年末。

一瞬の暇ができたのでクリスマスイヴのことを。

今年を振り返ると、ロシアのウクライナ侵攻と西側諸国の対露経済制裁によって物価高、燃料不足、など自分たちの首を絞めるような事態が起こり、日本のような島国だけではなくて、EUレベルでも、食料や燃料の自給自足やら地産地消などできていないこと、産油国、ガス供給国、軍産コングロマリットやらだけがうまい汁を吸って、ロビー活動や汚職で世界の政治を牛耳っていることなどが新たに分かった。その前の年には、同じことが「医療」や「予防医療」「医薬産業」のレベルで起こっていた。

フランスではクリスマス前にパリのクルド共同体を狙った殺傷テロ事件があり、クルドと聞けばロジャバ革命への共感を思い浮かべる私にはショックな出来事だった。

敵は全方位にいる、という感じだ。
それでも、クリスマス。

近所の教会で子供たちが作成したらしい「馬小屋」。
東方から来た「王様」っぽい人までいるのに、イエスの生まれたのは絶対に馬小屋の「藁の上」というのがポイント。こんな状況の赤ん坊を二千年も守れますか? と問われる感じだ。
一人の新生児も見捨てられない社会をみんなが本気で望まなければ、と心をあらたにする。ウクライナ戦争の初期に産院の爆撃で産婦が担架で運び出されているシーンが流されたのを思い出す。私たちはみな母子を守ると決意したヨセフになれるだろうか。
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クリスマスミサは「聖しこの夜」や「グローリア」などを大声で歌えるから欠かせない。
思えば、日本の義務教育の教科書の中でこの2曲はしっかり教えてもらったのだからそういう日本の宗教的垣根のなさというか宗教意識の薄さというかに感謝している。
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この下のものは必ず最後に歌われる曲。(divinという綴りはこの曲では通常のディヴァンでなくディヴィンです。つまり"le divi-nEnfant"とリエゾンされます。綴りから発音を習った外国人は一瞬とまどうところです。通常の形容詞は名詞の後に着くことが多いのでその場合ならディヴァンですから。)
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大人数のクリスマスパーティは翌日なので、イヴはミサの後、レストランがロックダウンしていた頃に見つけて注文したパリのギイ・サヴォワが提供するイヴのメニューのテイクアウトで。
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マロンとキノコと卵の前菜。
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白身魚メーグルとキャベツなど。
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 仔牛肉ブランケット風。
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デザートはチョコレートムースで、ミサの前には自家製のグリーンスープを飲んでいきました。(ミサでいただいたホスチアは普通の丸くて白いやつではなく、司祭が手で割ったばかりの大きなホスチアのひとかけらでした「角」のあるホスチアって何か新鮮でした。)

追記) 12/31、名誉ローマ教皇ベネディクト16世(以下B16)が95歳で亡くなりました。数日前に「重体」のニュースが流れましたが12/30には、意識があり明晰で、腎不全も改善させることができたというニュースだったので、持ち直すかもと思ったのですが、だめでした。フランス語が堪能で、2008年9月のフランス公式訪問時に収録されたパリのノートルダムでの説教やベルナルダンでの講演のビデオを視聴しなおすことになりました。(特にベルナルダンでは、文化の大切さを語り、「アートは神への道」と言っていました。徹底した知性と芸術的感性の両方を備えていた人でした。)
人気者のヨハネ=パウロ二世とフランシスコ教皇のはざまで、保守頑迷の異端審問官のようにも言われていたB16ですが、私は彼のファンでした。最後まで忠実な「ハンサム・ゲオルグ」に付き添われていたのが救いです。
私が彼のファンになったことはこのブログでもいろいろ書きましたが、なぜ彼が極右教条主義者のように誤解されてきたかについては明日にでもアップします。

# by mariastella | 2023-01-01 00:10 | 雑感

ラ・セーヌ (続き)   パブロ・フレイズマン

40年目の今年の「ラ・セーヌ」展覧会、今年のゲストのひとりであるアルゼンチン出身のユダヤ系Pablo Flaiszmanという銅板画家の作品に魅入られてしまった。
怖い。
夢の中なのか、過去の中なのか、未来の中なのか、見たくない秘密を見せられているのかよく分からない。銅版画のアクアチントという技法の卓越した人だそうで、謎に満ちたテーマは実はみんな自画像のようだ。三点購入。

「私・椅子」
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黒い鏡
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「剝かれたもの」
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この「剝かれたもの」というタイトルのフランス語が「?」で、そこにいた画家本人に聞いたら「皮を剝かれた」ものという意味のつもりだったようだ。画家を見ると、いたって普通の感じの人で、絵柄の怖さや迫力とは反対の穏やかな雰囲気。
ネットで検索すると、バナナと自画像もあり、さらに、剝いたバナナと自画像というのもある。剝かれて皮だけになっておかれているバナナの横で「自画像」も頬をテーブルに乗せて顔だけ見せている。

どんなに探しても「自画像」、自分の姿などは、見つからない。

永遠の秘密からは、甘美な気配がかすかに立ち上る。






# by mariastella | 2022-12-31 00:05 | アート

La Seine 展 

12月初めの週末、恒例の「ラ・セーヌ」グループの展示即売会に行った。
La Seine 展 _c0175451_03425735.png
これまでのモンパルナスと違って、20区で少しアクセスが不便だ。でもいくつかの部屋に分かれていて壁面も多いので楽しめる。
モンパルナスの時は地下で座って飲み物や軽食も可能でアーティストとゆっくりお話もできたのだけれどここの地下はデジタルアートのデモンストレーションになっている。
アーティストが音楽に合わせて自分のPC画面をいろいろ変化させていくのを見ながら同時にスクリーンも見たので興味深かった。
この展示即売では、手軽に買える「カード」状の作品を「持って帰る」という習慣が続いているから、このデジタルアートのようにその場で「消費」して自分で再現できないものを前にとまどった。

1月22日の日本館でのコンサートでコラボする予定の師井公二さんの今年のカードはこんなモティーフ。どれも一点物でとても美しいので、日本館でも購入できるようにとお願いしました。ヴァイブレーションというタイトルです。
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もう一人、日本人の女性アーティスト、Kayoko Konomi さんの銅版画作品が師井さんのコーナーの隣にあって、トランプがモティーフなので、トランプカードのコレクションをしている私はまた三つ並べたトリプティックを作ろうと3点購入しました。
La Seine 展 _c0175451_03451016.jpeg


(これまでにラ・セーヌで買ったカードで作ったトリプティックはこんなもの)

去年のこれももう額装してある。


今年はこのグループの40周年なんだそうだ。
La Seine 展 _c0175451_03424254.jpeg
これまでの案内状が壁に並べられている。
La Seine 展 _c0175451_03430985.jpeg

去年カードを購入したYukawaさんの絵。壁や床に落ち葉が配されていた。
La Seine 展 _c0175451_03432039.jpeg

# by mariastella | 2022-12-30 00:05 | アート



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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