人気ブログランキング | 話題のタグを見る

L'art de croire             竹下節子ブログ

ルルドの奇跡の起こり方 その9

セルジュを叫ばせた激痛は、2分後に消滅した。

それと共に、全身が楽になった。

ずっと冷たかった左脚が温まってくるのを感じた。

ゆっくりとホテルに向かい、聖ヨセフ門への坂をのぼりながら、突然、マリアが彼を助けに来てくれたのだと理解した。

これはただの幻想なのだろうか。

セルジュは妻に電話して、何か分からないけれど何かが起こった、と報告した。

次の朝、セルジュの体調は完璧だった。

ではあれは夢ではなかったのだ。

セルジュはホテルにいる司祭に報告し、2人で医学センターにこの「治癒」を申告に行った。 (続く)
# by mariastella | 2011-04-23 07:11 | 宗教

ルルドの奇跡の起こり方 その8

洞窟の前で祈ったセルジュは、天に昇った心地になった。

思わず自分の額に指で十字を切った。

それまで一度もしたことのない仕草だった。

マリアがベルナデットに促したように、セルジュも水を汲み、飲み、顔を洗った。

その後で立ちあがって歩いた。

10メートルほど進むと、左足全体に強烈な痛みが走り、セルジュは倒れた。

人々が駆けつけた。気分が悪くなったのだと思われたのだ。

セルジュは木にもたれて落ち着こうとした。

けれども激しい痛みがまた襲ってきて、脚がもぎ取られるかと思った。

セルジュは叫んだ。

この時にセルジュの体に何が起こったのかは分からないが、ともかくそれは、強烈な痛みとして感じられるものだったのだ。

体の歪みを治すと称する施術の後でも、痛みが取れる前に、一時、施術前よりも痛みがひどくなる、というような症状はよく耳にする。

「治り方」が超自然でも、「感じ方」は普通の生理的神経的なものになるのだろうか。

直前にセルジュの得た多幸感と、その後の激痛は対照的だった。

(続く)
# by mariastella | 2011-04-22 07:52 | 宗教

ルルドの奇跡の起こり方 その7

ホテルの部屋の窓から蝋燭を灯した聖母行列がサン・ミッシェル門の方に向かっていくのが見えた。

行列が途絶えた頃、セルジュは突然、洞窟に行きたくなった。

急いで服を着た。

ホテルの廊下を歩いていると、誰かに後をつけられているような気配がした。

マリアがそばにいるような感じだった。

エレベーターの前に来ると、すべてのドアがひとりでに開いた。

(パリの不思議のメダイの聖堂での聖母御出現でも、天使に起こされた見習い修道女カトリーヌ・ラブレーが聖堂に向かうと、すべてのドアが次々とひとりでに開いた、といわれる。不思議話によくあるレトリックに過ぎないのか、御出現に立ちあうような異常な精神状態にある人自身が無意識に放射するサイキック・パワーなのか、第三者による隠れた演出なのか、あるいはそこいらにいた浮遊霊のような超常的なモノの仕業なのか、何かの偶然でセンサーが働いたのか、エレベーターなら、前の階で降りた人が間違ってボタンを押してしまっていたのか、まあいろいろな「説明」も可能だが、セルジュのこの話の中で、この状況でエレベーターのドアが開くシーンは、似合っている、と思う。)

不自由な脚でようやく洞窟にたどり着くと、巡礼団に加われなかった人たちから託されていたさまざまな願い事の祈りを繰り返した。

ベルナデットが最初に跪いた場所にセルジュも跪き、ロザリオの祈りを10度繰り返した。

ほとばしる泉の音が大きくなったような気がして、心が奪われた。

セルジュのような人は地元の教区の主催するルルド巡礼に来ている。だから、地元を動けない人々のための「代願」も託されているわけだ。

その人の快癒を祈って大蝋燭を供えたり、託された祈願の紙を洞窟の奥にあるボックスに納めたりする。そこで共同祈願に組み入れてもらうのだ。

みんなのためにルルドの水を持って帰るのも「お約束」である。

そんなことを毎年繰り返しているセルジュだから、この時も、ごく自然に、他のいろいろな人のことを思い浮かべて祈ったわけだ。

ルルドに来ると、自分のことが後まわしになってしまうことは、そんなに不思議なことではない。

本当に自分の病気を治したいと思う人はすでに病院に行っている。  (続く)
# by mariastella | 2011-04-20 23:57 | 宗教

ルルドの奇跡の起こり方 その6

セルジュ・フランソワが泣き出した女性を思わずだきしめて、

「マリアがここにいるよ、ぼくたちと一緒に。ぼくたちを見ている。しっかりして、大丈夫だよ」

と口にした、まさにその瞬間、

はげしい震えが彼を貫いた。

それは足元から頭を突き抜け、脳天が破裂するかと思った。

その週は毎日のように雨が降っていた。

風邪をひいたのかもしれない、

とセルジュは思い、ホテルの部屋に引き上げることにした。(続く)

  
# by mariastella | 2011-04-19 21:43 | 宗教

ぜひ見てください。

フランスにいるBD作家やイラストレーターたちのコミュニティが、日本の震災復興支援のために作品を出している。

4月30日にパリのギャラリーArludikでオークションにかけられる350点のデッサンがネットで見られる。

鉄腕アトムやトトロ、仮面ライダー、女学生、鯉、ナマズ、相撲取り、武士、日本刀、中国服っぽい着物、日の丸、富士山、桜、

ありとあらゆるステレオタイプが並んで、危機における日本のイメージはこれなのか・・・とはじめは斜めに眺めていたのだが、

次々と繰り広げられるイマージュの連続にだんだんと圧倒されて、

善意が素直に感じられて、

中には涙なしには見られない感動作も・・・

http://cfsl.net/tsunami/

他のどの国の地震や災害も、短期間にこのような作品群を生むことはなかったろうと思うと、感慨深い。

30日はパリを留守にするので残念だ。
# by mariastella | 2011-04-19 00:43 | お知らせ



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
以前の記事
2026年 07月
2026年 06月
2026年 05月
2026年 04月
2026年 03月
2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 04月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
すてきな女性!
at 2026-07-12 00:05
けだまだま
at 2026-07-11 00:05
ネコとネズミ
at 2026-07-10 00:05
猫の目
at 2026-07-09 00:05
「食べてはいけない!」
at 2026-07-08 00:05
『神秘の目--スペイン黄金の..
at 2026-07-07 00:05
エムバペとジダン
at 2026-07-06 00:05
2026 FIFA ワールド..
at 2026-07-05 00:05
死刑囚から歴史学博士に
at 2026-07-04 00:05
「猛暑」第二派の「最終日?」
at 2026-07-03 00:04
『坂本龍一 ピアノへの旅』
at 2026-07-02 00:05
ブログ読者の方々へのお礼とお..
at 2026-07-01 00:06
「推し活」とアディクションと..
at 2026-06-30 00:05
猛暑と推理小説
at 2026-06-29 00:05
レバノンはどうなるのだろう
at 2026-06-28 00:05
「教え」と「育て」
at 2026-06-27 00:05
オディールとジャンヌ・ダルク
at 2026-06-26 00:05
十字架のイエスの意味
at 2026-06-25 00:05
「心」と「心臓」
at 2026-06-24 00:05
「正義と愛」か「貪婪と暴力」か
at 2026-06-23 00:05
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧