人気ブログランキング | 話題のタグを見る

L'art de croire             竹下節子ブログ

オバマのハワイ里帰り

 オバマ大統領候補を育ててくれたハワイのおばあさんの具合が悪いというので、彼が48時間、選挙活動を中止してハワイへ帰るという記事があちこちで出ていた。

 この大事な時に、家族のために留守をするというのは、

 もう勝利は確実という自信がある、

 家族を、しかも目上の年寄りを大事にするという人間的な側面をアピール、

 などの理由があるかもしれないが、こちらで見るどの記事にもおばあさんと抱擁する彼の写真などが出ていて、そのおばあさんが典型的な白人だということが嫌でも目に入る。

 確か、アメリカでは70年代だかの知事選挙で、黒人候補にみなが投票したといっていたのに、蓋を開けたら落選したという事件があった。表向きは応援していた白人の中で、いざとなったらどうしても黒人に投票するのに抵抗があったということだろう。

 今は時代が変わったが、それでも、今のオバマ優先の空気の中で、やはり彼の肌の色への差別意識というのが消えたとは思えない。ヒラリー候補だって、女性差別主義者から明らかな嫌がらせを受けた。

 で、今回の選挙戦の最後の駄目押しに、オバマと白人のおばあさんの抱擁シーンをばらまいて、ほら、彼は白人の仲間ですよ、というサブリミナル情報を与えてるのかもしれない。

 そうだとしたらなかなかの戦略だ。

 ネット上のジョーク(?)にこんなのがあった。

 本当に差別がない社会が実現するのは、黒人女性のローマ法王が誕生した時だ


 というものだ。

 アメリカ、どうなるのかなあ。
# by mariastella | 2008-10-22 04:12 | 雑感

DSKのスキャンダル

 NYでIMFの専務理事をやってるDSK(ドミニク・ストロス=カーン)が、金融危機のこの時期に、もと同僚のハンガリー女性との浮気と彼女がやめたことについてスキャンダルを言い立てられている。

 浮気は去年のことで、彼はそれを認めた。

 アメリカでだからこうなったんだそうだ。
 フランスなら浮気の真偽を本人に問いただすという展開にはならない。

 「アメリカでは、公人が公共の場で嘘をつくのはモラル上の大罪だからだ」

 とフランスのメディアは解説している。

 アメリカはピューリタン的で性的パラノの国だから、とも言っている。

 夫人がコメントしなければならなかったのもアメリカならでは、だ。

 サルコジの女性経歴はお笑いだが、DSKはまったく反対のキャラなのに。

 夫人は、「どのカップルにも必ずあり得ることで、私たちにはもう終わったことです」

 みたいな発言をしている。ともに団塊の世代で、ジャーナリストの夫人は再婚だが、DSKは彼女とともに新たに生まれた、というくらい、強い絆だったみたいだが。

 「浮気」はひと晩だけだった、とかいうのも、何かかえって生々しくて嫌な感じだ。

 調査中で、女性の退職について、彼が退職に追い込んだとか退職の条件を有利にしたなどの事実が発覚すれば、DSKは辞任に追い込まれるそうだ。アメリカでIMFのトップで、今の時期に、フランス社会党からの大統領候補(党内選挙でセゴレーヌ・ロワイヤルにやぶれた)だった彼の手腕が期待されていただけに、彼の足を引っ張っているのは一体だれだろう、と詮索したくなる。

 しかし、そもそも、既婚の60年配の男が、要職について大事な仕事してるのに浮気なんかするなよ、とやはり思う。
# by mariastella | 2008-10-22 00:18 | 雑感

アメリカ大統領選の宗教ボキャブラリー

 夕べ、TVで、アメリカ大統領選と宗教についてのドキュメンタリー番組を見た。ベルギー制作でヨーロッパ目線なのだが、1人のイスラエル人がアメリカを旅して取材するロード・ムーヴィー風になっている。

 後で、ドイツ人、フランス人、アメリカ人などをまじえた討論があった。これを見てる平均的フランス人の視線がすごく分かる。アメリカのキリスト教はヨーロッパの16世紀以前のキリスト教じゃないか、とかいっている。驚きは日本人でも同じだろう。

 それは、

 なんだ、アメリカって全然「政教分離」してないじゃないか、


 などというレベルのものではない。

 
 こいつら、ほんとに、本気で、こんなこと信じてるのか?

 という感じである。

 「オバマは神が遣わせてくれた人」

 「神に選ばれた」

 なんて熱狂している。

 実際、候補者の演説もすごく宗教的含意に満ちている。

 フランスでは絶対あり得ない。
 その点では日本と同じだ。

 これまで、何となく考えてたのは、

 アメリカは神の国として建国したので政教分離がもともと無理、

 1960年代や70年代のリベラルの反動で宗教右派が台頭した、

 などというファクターだった。

 でも、昨日の番組を見て、はっきり分かったのは、

 ケネディからニクソンまでは、大統領選のディスクールのパラダイムが今とははっきり別だった。
 アイルランド系でカトリックのケネディは、当選するために、「政教分離」のパラダイムを創始せざるを得なかった。それは1960年から1976年まで機能していた。

 それがウォーターゲイト・スキャンダルで壊された。

 そこに登場したのが、政治の言説にモラルを導入したカーター(民主党!)である。
 「モラル」を担保したのが「信仰」だったのだ。

 後のブッシュ・ジュニアと同じ「ボーン・アゲイン」もそうだが、要するに、「神を信じているから自分は絶対に嘘をつかない」、と言ったわけである。(中絶だの同性愛者の結婚だのは、1976年にはテーマにはなっていない。それは当時マイノリティの意見で政治的でなかった。)

 それから、パラダイムが劇的に変わり、それ以来の候補者はみな多かれ少なかれ聖書の「預言者」として自己演出するようになった。宗教右派の原理主義的テーマは、後になってそれに利用されただけだったのだ。(今はそれが踏み絵のような肥大したファクターになった。)

 オバマの場合はキング牧師のイメージも使っているからすごく預言者的だ。
 黒人のブラック・チャーチは、もともと、教会が彼らの学校で病院で公民館の役割を果たしていたので、政教が切り離せない。オバマは意識してそれを利用している。

 で、実際、彼がどれだけ宗教的言辞を弄しても、中味は、かなりプラグマチックな人だろう。
 でも、大統領選の演説では預言者としてふるまう、これがもうお約束のレトリックになっているわけだ。とはいえ、よくもこれだけ聖書的せりふを振り回せるなあ。
 モスクでの取材もあったが、大統領選の「神」や「預言者」はみなユダヤ=キリスト教の神だから自分たちは居場所がない、と言っていた。

 熱狂してる人たちは、果たして、どの程度「演じて」いるんだろう。
 内心の虚実の具合を知りたい。

 経済恐慌のせいで、神懸り言辞よりももう少しリアリティのある言葉も最近は出てきたが、そもそも権力志向の政治家なんてほんとに神なんて信じているんだろうか。

 
# by mariastella | 2008-10-16 02:59 | 宗教

ネコの自由と安全

 今朝のラジオで猫論議をやっていた。

 猫マンガとか猫事典とか書いてる人たちの座談会だ。猫好きな人ばかりだから、聞くほうも馴れ合いの安心感がある。

 猫がヨーロッパに入ってきたのは、ネズミとともに、なんだそうだ。ネズミとペストが一緒に入ってきて、その解決策として猫が導入されたんだそうだ。

 黒猫が魔女とともに焼かれたのは、そもそも猫が尻尾を掲げて、尻を見せることが、性的だと見なされたので、娼婦や魔女と結びつけられたとか。

 猫を飼う人は自分の生活に「予見不可能性」を引き入れている。
 猫を飼う人は「自由」の価値を主張する人である。

 ふんふん、まあ、この辺は、猫好きのお約束の自己評価である。

 で、室内飼いの猫について。

 猫を室内飼いする人は、猫の安全を求めている、と言う。
 
 で、猫を放し飼いにしないで、家に閉じ込めることは「自由」の謳歌に反しないか。

 すると、

 「自由は安全を含む」

 から当然だという。

 うちには室内飼いの3匹の猫がいる。

 彼らのせいで家も家具もぼろぼろだ。

 しかも、猫は自由、独立のシンボルみたいなイメージがあるから、それを妨げているのではという罪悪感がいつもあった。去勢しただけでうしろめたく、一生の借りを作ったような気もした。

 でも、ずっと彼らとうまくやっていて、彼らが「いい感じ」なのは分かる。

 最初の猫は車に轢かれて即死した。
 次の猫はどこかで毒を撒かれて死んだ。
 喧嘩の傷がもとで死んだのもいる。

 3年以上生きたのはいなかった。

 いろいろあって、ついに、完全室内飼いに踏みきった。

 それ以来、一匹も死なない。
 
 13歳が1匹に、8歳が2匹である。

 家具は傷だらけで私の手や腕や肩や背中も傷だらけだが、彼らには傷一つない。

 毛並みはつやつやのぴかぴかで、肉球も赤ちゃんのようにぷよぷよ。


 だから私の選択が「間違ってない」とは思ってた。

 しかしいつも罪悪感がはりついていた。

 「自由は安全を含む」(La liberte inclut la securite.)

 と言われて、10年来の罪悪感が霧消した。

 彼らの自由をリスペクトするには、安全を提供してやらなければならない。

 危険があると分かっているところに、自由に、勝手に、さあ、どうぞ、と送り出すのは本当の自由のリスペクトではないのだ。

 自由と安全はセット。

 自由のために安全を目指し、安全のために自由を行使できなくてはならない。

 子供の教育とか国の安全保障とかについても、いろいろ考えさせられる。
# by mariastella | 2008-10-16 02:27 |

Les amants magnifiques

 いきつけの小劇場 Theatre du Nord-Ouest に、モリエールの『Les Amants magnifiques』を観にいった。

 今から年末くらいまでにパリにいる人、是非観にいって欲しい。

 あんまり観客が少ないんで気の毒だからだ。こんな良心的な上演がペイしないと、文化が貧困になってしまう。
 私は昔、6人から12人くらいまでのアンサンブルでいろんなところで弾いていた。中には、すごく客の少ないコンサートもあった。その時に言われたのは、「客の数が出演者の数よりも少なければ、出演者は上演を取りやめる権利がある」、ということだ。実際はそんなことは一度もなかったが、こっちが12人だと、思わず客の数を数えることもあったし、私がコンサートをオーガナイズする側になっても、サロン・コンサートなんかでお天気が悪くて7人しか集まらないことがあった。出演者は2人だった。まあ、そういう時に来てくれる人はモチヴェーションが高いし、密度も高いので、帰って充実して喜んでもらえることが多かったが、そんなわけで、小劇場で出演者の数と客の数を比べるのは癖になっている。

 で、今日の午後は客が私を含めて8人、出演者は13人である。だからすごく居心地が悪かった。しかもそれだけでも眼福って感じの「コスチュームもの」だ。私の他には年配の男性4人、中年の男性1人、中年の女性2人、みな単独客だ。なにしろ空いているのでバラバラに座っているからよく分かる。カップルで芝居を見物に来るのが普通のフランスではめずらしい。私は割引券を持っているので、13ユーロしか払わず、演出や照明や衣装など無視して単純計算しても、役者1人に1ユーロしか払ってない計算である。

 今シーズンはモリエールの芝居34作品の上演だ。この作品のように珍しいものが観られる。
 私にとってこの作品が絶対に見逃せなかったのは、リュリーの音楽にバロックバレーの振り付けがついていると思ったからだ。実際は、音楽は録音だったし、サラバンドなどの振り付けもたいしてバロック的ではない。というか、俳優たちは明らかにダンスの素養がない。
 
 でも、それはそれで悪くなかった。衣装が美しいこともあるし、劇中劇の設定がおもしろいからだ。それに、基本的に、16世紀以来のダンスの基本は poser しながら「歩くこと」である。かかとから、一踏みごとに体重をのせて、時間と空間をその度にたっぷり満たす。プリエやドゥミ・ポアントはそのヴァリエーションに過ぎない。ピョンピョンはねるのが民衆的なダンスから来てるとしたら、poser して、体の占める時空を移動させていくのが、領主や法官や聖職者の歩き方で、その発展形としての宮廷ダンスだった。
 女性の方は、poser というよりも、上半身のプレザンス presence が問題になる。足と腰にどうやって胸郭を乗せていくか、である。

 だから、poser と presence さえ成功すれば、音楽にあわせて歩くだけで、宮廷バレーは基本的に成功する。後は、文脈の問題だから、踊りのテクニックがなくても、それだけでは台無しになることはない。

 しかし、この作品が必見なのは、歴史的興味からである。

 これは、モリエールからリュリーに寵愛を移し、マドモワゼル・ラ・ヴァリエールからモンテスパン夫人に寵愛を移したルイ14世が、自分が愛人たちと踊るためにモリエールに書かせた舞踊劇なのである。ルイ14世、王妃、二人の愛人、王の弟、そしてモリエール自身も出てくる。モリエールがラシーヌだのコルネイユだのと決定的に違うのは、自分自身が役者で舞台監督だったことだ。この作品では、王や王妃たちが自分たちの役で出てくると同時に、劇中劇で踊ったり牧歌的な愛のコメディを演じたりする。
 散文劇のせいか、すごくリアルである。あの頃の、「恋愛作法」のややこしさと倒錯も実にリアルに伝わってくる。しかも言葉の力が強烈なので、大した話でもない恋愛シーンですら、それなりに迫ってくる。キャスティングもなかなかいい。衣装もいい。
 
 私は『バロックの聖女』(工作舎)の中で、ヴァリエール嬢とルイ14世の恋について書いた。この芝居が演じられた頃にはサンジェルマンの城で、ヴァリエール嬢はモンテスパン夫人と続きの部屋をあてがわれて、ほとんどいじめにあっていた。まもなく、修道院に入ってしまう。
 
 ルイ14世は、そういう時代にこういう劇を書かせて、その中で二人を出演させて、自分は劇中劇でモンテスパン夫人とキスするシーンもあるのだ。
 この劇の中心となる恋愛は、若い貴族の娘が二人の求婚者のどちらを選ぶか、それとも彼女にひそかに思いを寄せる将軍と結ばれるか、という話だ。それはそれで、この頃の恋愛の建前と本音がおもしろいのだが、どうしても、ルイ14世と二人の愛人とモリエールに目がいく。ルイ14世紀の時代に興味のある人にとっては、新鮮な光を投げかけてくれる作品だと思う。
# by mariastella | 2008-10-12 05:40 | 演劇



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
以前の記事
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 04月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧