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クリスマスマーケットのテロ

予約投稿の続きものを中断して、12/11に起こったストラスブールのクリスマスマーケットのテロのことを書く。

11日の19h50に29歳の男が観光客も含めて賑わうクリスマスマーケットで銃を撃ち、3人死亡、8人重傷、5人軽傷だそうで、その後タクシーを強奪してドイツ方面に逃げ、これを書いている時点(12日の朝)では捕まっていない。

20hにはTVのニュースを見ていたが、その時点ではテロの情報確認のためか、まったく触れられていなかった。10日のマクロンの演説の分析や「黄色いベスト」の反応がほとんどだった。
何しろ10日のマクロンの演説は歴代大統領の演説生中継の中で視聴率が断然トップだったという。2位が、2015年1月のシャルリ―エブド襲撃テロの直後のオランド大統領の演説と2007年3月のシラク大統領のサヨナラ演説が並んでいる。

これらがいずれも今年のサッカーのワールドカップでフランスが優勝した決勝戦の視聴率を上まっているのだから、フランス人って、エリゼ宮から発せられる「僕たちの選んだ王さま」が直接声をかけてくれる演説がどれだけ好きなんだ、ということが分かる。だからこそ、マクロンが自分が任命した首相に任せてなかなか表に出てこなかったのが怒りに油を注いだんだなあ。
民主主義の危機、政治の民主主義だけではなく社会民主主義、経済民主主義の危機だと認めてもらったことで怒りが少しおさまった感はある。

で、「黄色いベスト」運動について何度かこのブログで書きながら、私は「でもテロの恐怖よりずっといいや」と思っていた。狙われるのは警察や政府関係の場所やブティックで、場所も限定されているから「普通の人」が巻き込まれることはまずない。2015-16年にかけての無差別テロの恐怖と比べればまったく種類が違う。
それどころか、「黄色いベスト」運動のおかげで、「イスラム過激派」やそのシンパは影を潜めた感がして、イラクやシリアのISが掃討されたこともあり、例の2024年のパリ・オリンピックに向けて「テロはアンダーコントロールね」というので、ああ、オランド大統領時代のテロは終わったのかという単純な安心感が少しはあった。
去年まではクリスマスシーズンになると、2016年のベルリンのクリスマスマーケットのテロの記憶も生々しいので、教会やカテドラルのそばに行くのもなんとなく怖かったのだけれど、今年は「黄色いベスト」だから、彼らもクリスマスは家族で楽しむはずで、楽勝だなあと思っていた。

それに加えてテロの緊急事態宣言以来、諜報技術も高まり他国との連携も緊密になって、テロ計画の事前発覚と逮捕というのが増えていた。問題は、ISにインターネットなどで煽られた個人が過激化して地元でテロにはしるという予測のできないケースだけれど、それはそれで怖いとしても、アメリカでテロよりも頻繁に起こる「拳銃乱射事件」のニュースを聞くにつけて、リスクはアメリカよりも低いしなあと思っていた。

でも、今回のテロリストは、2015年に話題になった典型的なタイプで、2015年の同時多発の連続テロのテロリストもストラスブールの「イスラム過激派地区」に滞在していた。29歳の男もその地区出身の住民で、はじめはさまざまな空き巣などの犯罪に手を染めて何度も刑務所に入っている「移民地区のよくある犯罪者」だったが、最後に刑務所にいた2015年に刑務所の中でイスラム過激派に「洗脳」されたというお決まりのケースとなった。で、インターネット閲覧履歴などから、イスラム過激派警戒の要注意人物として登録されてはいたのだけれど、そんな人物はたくさんいるので、終始見張られているわけではない。組織的でなく単独でテロをやろうと思えば成功する率は高い。

今の時点で彼の名は発表されていない。捜査の効率を高めるためだそうだ。

このことで「黄色いベスト」運動一色だったメディアが一斉にテロ報道で埋まり、「イスラム過激派がキリスト教のクリスマスを狙う」という、今となってはなんだか少し懐かしいような構図が再び浮上した。

だから「黄色いベスト」の中には、「もうこんなことやってる場合じゃない」、とクリスマスを年一度の家族の集まりとして楽しむ「普通のフランス人」に戻ろうとする人、それでなくともプロの壊し屋が混ざるせいで「暴力」のレッテルを貼られるのが遺憾なのにテロとも比べられると困るという声が増えてきた。

同時に、こういうクライシスには必ず登場する「陰謀論」も現れている。

つまり、政府が「黄色いベスト」運動から注意をそらすため、収束させるために、ストラスブールのテロを利用している、というものだ。

それにしても、11月半ばから続く不穏な空気がマクロンの「謝罪」ポーズでようやく落ち着くかという時、遅らせていたクリスマスショッピングにこれから精を出す、と人々が語り出した時になって、再びテロ、しかもフランスで最も有名な「クリスマスマーケット」のテロということで、ああ、中東の危機は収束などしていないのだなあという現実をつきつけられる。
難民に関するマラケシュ合意やヨーロッパ諸国の右傾化などに対してEU理念を掲げて戦おうとしているマクロンの立場は困難を極める。
中東だけではなく、フランスが派兵しているマリやニジェールの情勢も膠着状態だ。

平和とは、リビングの真ん中でデコレーションが点滅するするクリスマスツリーの周りで完結し味わえるようなものでは、ない。


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by mariastella | 2018-12-13 00:24 | フランス

黄色いベスト運動とフランス革命

12/10、マクロンがようやくTVで13分間、反省の弁と最低賃金の100ユーロ上乗せなどを語り、今の状況を「経済的社会的緊急事態」と形容した。「黄色いベスト」という言葉は一言も発していない。
マクロンのことだから、どういう巧みな言辞を弄するかと思ったら、まあ、過不足ない感じだった。これだけでは全然ダメ、高速道路の値上がりもタバコ税の値上がりも1月から決まっているのだから、と息巻く「黄色いベスト」の反応もあれば、これで、「黄色いベスト」と純然たる「壊し屋」とを区別して対応できるという歓迎の声もある。

マクロンは、デモをするのは憲法で保障された権利だが、いかなる理由があるにしても、店を襲ったり、警官や公務員、国の公共財産(市役所や凱旋門の中身が荒らされたことなど)を傷つけることは許されない、と言っていた。

では、「フランス革命は?」とも思ってしまう。バスチーユ監獄が破壊されたし。

メールで、日本のフリージャーナリストが単身パリに乗り込んでレポートしている記事を読んだことを知らせて心配してくれる人がいた。このジャーナリストはパレスティナなどでもレポートしていて私も興味深く読んだことがあるし、沖縄知事選の結果も真っ先にそこで知った。

で、世界一物価の高いフランスに来て大赤字になりそうでカンパを募っているのだが、彼のレポート写真とは、パリの銀行やスタバのガラスが割られているもので、ネオリベ富裕層のシンボルである銀行とアメリカ資本のグローバル化のシンボルであるスタバが狙われた、という文脈だった。

正直いって、赤字覚悟でパリに来るメリットはないなあと思った。パレスティナやロヒンギャ難民キャンプとは違って、フランスではジャーナリズムが機能しているから、地方の動きを含めて、リアルタイムの情報もリピートもあふれている。

「スタバはアメリカ資本だから狙おう」なんて発送する「黄色いベスト」などいないだろう。
先週土曜に襲われたのは庶民的な街でのメガネ屋とスポーツ用品だったし、中心街で時計や宝石店が襲われるのは、前にも書いたけれど、残念ながら、ほぼプロの「壊し屋」集団の常で、今回は興奮した「黄色いベスト」のメンバーの一部が確かに加わったという感じだ。
(それに「破壊」は土曜日限定で、日曜のデパートは人があふれ、ジョニー・アリディ葬儀の一周年のミサも地方からも押し寄せるファンでマドレーヌ寺院と周辺は満杯だった。数年前のテロの厳戒態勢などに比べると比べ物にならないリラックスした光景だ)

「黄色いベスト」の怒りはまさに「新しい政治をやると言って直接選挙で選ばれたくせに上から目線で富裕層ばかり助けている」というマクロンと政府に向けたもので、警官や「共和国のモニュメント」を攻撃しろ、ぶっ壊せ、という意志を表明した「確信犯」は少なくない。

その意味では確かに「フランス革命」の精神を踏襲している、というか、その正当性があるという意味の「確信犯」だとも言えるだろう。で、日本のフリージャーナリストが自腹で「革命の現場」をレポートしに来たのだろうけれど、すでにもっとインパクトのある破壊シーンが出回っているのに、個別のつっこんだインタビューもできないで恣意的に切り取るのは無駄?で的を外している気がする。もっと別のところで貴重な情報を集め続けてほしい。

でも、ともかく、このような「暴力」と「破壊」のエスカレートがマクロンの譲歩を引き出したのは事実だ。

今の私は絶対非暴力主義だけれど、カトリックの歴史の中で興味深い例を引いた記事を読んだ。(続く)



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by mariastella | 2018-12-12 00:05 | フランス

黄色いベスト運動の現状について

日本のTVで、毎日のように「パリは燃えているか」という具合に、パリの「暴動」の様子が放映されているとかで、日本の知り合いから次々と「大丈夫ですか?」とメールをいただくようになった。

うーん、確かにパリ中心部のホテルやデパートやブティックはこのクリスマスシーズンに土曜に店を閉めるだけでも痛手だろう。特にここ2週間は中心部のメトロの駅が土曜日に閉まるので、買い物は日曜日にという人が多く、その代わり日曜の人では多くなる。でも土曜日だって、知人のやっていたオペラ近くの和物のクリスマスマーケットなど入場制限したほどの盛況だったというし、今回の抗議の的は大統領や政府に対してだからエリゼ宮周辺でなければ、静かで、「富裕者優遇」への抗議でもあるから、庶民的な場所は静かだ。

この土曜日にはエコロジーのマニフェストが、レピュブリック広場などであったけれど、和やかだった。

それでも解散時にいくつかのブティック(スポーツグッズと眼鏡店)のガラスが破壊されたけれど、それは、残念ながら、この所フランスのデモで常態化しているほとんど組織的な破壊集団の仕業で、これは今年のメーデーでも大きな問題になった。

今回破壊の対象になったパリの中心にも私の直接関係する場所があるのだけれど、ブティックでない限り、上層階のアパルトマンに直接の害が及んだわけではない。催涙ガスが達したというケースはあるけれど、過激集団が攻撃するのは「政府の手先」である警察などなのだから、「普通の人」は「的」にはならない。

クリスマスのショッピングをする程度の余裕がある普通の中流階層の住む町などは至極静かで平和だ。

私もその一人だけれど、はっきり言ってしまうと、今回のサイレントマジョリティで暮らしが苦しくなった人々の抗議よりも、2015年以来続いていた無差別テロのリスクの方がずっと怖かった。去年まではクリスマスが近づくと、イスラム過激派にカトリック教会などが狙われるのではないかと言われて、教会に近づくのも恐る恐るという感じだったのだ。


でも、今年は、

「イスラム過激派のテロ? そういえばもうきかないなー。何しろ、2024年オリンピック開催が決まった時に『テロはアンダーコントロール』ってことになってるしなー」

という感じだ。(実際はどうなるかもちろん分からない)


今回の「黄色いベスト」は地方の代々のフランス人が中心だが、ムスリムでもずっと前から普通に働いている人たちも同じで、最低賃金で生活できない、というのが第一の問題なのだから、宗教色はない「連帯」がある。

「黄色いベスト」の中の一部の過激派は「壊す」「殺す」という言葉を先週から使い始めて、極左のメランションが「マクロンはケネディのように終わる」みたいなことを言って不穏な空気を煽り、この週末は死者が出るのでは?と懸念した警察が警備を強化し、武器を携帯する「黄色いベスト」を事前逮捕しまくった。だからそれは功を奏して先週よりは害が少なかったのだけれど、装甲車を並べるような光景そのものが「内戦」っぽくてFOX NEWSが喜びそうなフランスのイメージダウンとなった。

でも、今でも世論調査では70%以上のフランス人が「黄色いベスト」運動を支持している。

私もその一人だ。

今まで目に入ってこなかったサイレント・マジョリティの暮らし、これまでなかなか声を上げられなかった彼ら、プライドもあるし、難民、失業者、中東の戦争、テロリストと、大問題続きのフランスでは、一応定職もある自分たちが声を上げるきっかけがなかなかつかめなかったのだと思う。

そして、この「黄色いベスト」運動を支持する、ということが、「腐ってもフランス」「ネオリベの時代でも共和国精神を失っていないフランス」を反映しているようで、好ましく思っている。

これからこれがどのように展開するのかまたお知らせします。


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by mariastella | 2018-12-10 00:05 | フランス

ロシアとウクライナの正教会

私は日本にあるロシア正教の教会がどの主教区に属しているのか知らない。

フランスでは最近、11月28日に大異変が起こった。

コンスタンティノープルの大主教が、西ヨーロッパのロシア正教会を切り離すと宣言したからだ。


日本もそうだろうが、1917年のロシア革命のせいで、多くの白系ロシア人(これは白人という意味ではなく、共産主義の赤に対する色だ)が日本にもヨーロッパにも亡命した。

フランスでの白系ロシア人コミュニティは自分たちの教会を創ったけれど、本家のロシア正教会がソ連に従属しているのを見て、ソ連配下のロシア正教会の大主教を頂くのを拒否した。

で、1931年以来、彼らはコンスタンティノープル大主教を頂いている。

今回コンスタンティノープルから切られるとなると、同じ「ヨーロッパ」のギリシャ正教会に向かうとみられる。

ロシアのキリスト教と言えば、もとはウクライナ、キエフから広がった。

ここ とか ここ 参照)

それなのに、ウクライナの正教会は歴史の流れとロシア帝国主義の中で、もう332年も、ロシア正教会に組み入れられてしまっている。


もともと、迫害の時期を経た後でキリスト教を国教にしたローマ帝国が、ローマからコンスタンティノープルに首都を移してから、コンスタンティノープルは「第二のローマ」といわれていたが、イスラム教の登場でギリシャ・トルコの東方正教は力を失った。で、正教の信者数が世界一となったロシア正教がモスクワを「第三のローマ」と自称することになった。

で、もう数年越しのウクライナとロシアの対立、一触即発の事態を前にして、10月15日にコンスタンティノープル大主教が、ウクライナ正教会をモスクワから独立した「正教会」だと公に認めたのだ。それは、コンスタンティノープルが「ロシア正教会」によるウクライナ支配を否認したことになる。

その結果、それまでコンスタンティノープルの大主教を頂いていたヨーロッパのロシア正教会も「離縁」を余儀なくされたというわけだ。

私にはパリのロシア正教会に通う友人もいるので、他人事とは思えない。

ロシアとウクライナ情勢もフランスにいると脅威の種だ。

ウクライナの作家が、もともとウクライナとロシアの民衆の政治感覚はまったく違う、と言っていた。

ロシア人は皇帝を崇めるのが好きだ、皇帝が気に入らなくなったら殺して別の皇帝を立ててまた崇める(イワンでもエカテリーナでもレーニンでもプーチンでもOK?)、でもウクライナの民衆は代々民主主義メンタリティの持ち主で、独裁など耐えられないのだそうだ。

これからどう展開するのか分からないけれど、忘れないようにここに覚書しておく。


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by mariastella | 2018-12-09 00:05 | 宗教

黄色いベスト運動と、富裕層のアクション

先週の週末のパリでの過激化したデモ隊(一部は純然たる破壊グループや盗賊だが)とポリスの衝突が「クリスマス商戦」と観光産業をだいなしにしたことでこの週末の緊張が高まるフランス。ショッピングに行かない人たちはamazonなどの通販に頼り、そのamazonはフランスに税金を払っていないという悪循環。

なぜ週末かと言うと、今回の抗議活動は、最低賃金レベルで働く人(フランスの半数近くだという。所得税を払っている人もそもそも半数以下だ)によるもので、終日は、働いて、夜にロータリーなどの封鎖場所に行き、週末に「マクロンやめろ」と訴えにパリにでる。
パリに出るのも金が要るわけで、車でロータリーを通過する人などが「黄色いベスト」の人々に現金をカンパする様子も報道される。燃費税引き上げは取り消されたものの、「最低賃金では暮らしが成り立たない、購買能力がない」という現実は変わらない。マクロンが富裕者財産税を廃止した恨みも新たに噴き上げる。実際は、富裕者の財産に税をかけるとフランスからヨーロッパやロシアや他の国に逃げられたり、他の国に会社を移したりなどの弊害が続いて、それならそれを軽くしてその分をフランス内の企業に投資してもらおうという理論だったが、それが実際にどう効果を上げているのかはまだ明らかにはなっていない。

それにしても先週末からの凱旋門での攻防などの映像や、テレビのスタジオに招かれた「黄色いベスト」の姿ず家庭でも何度も流されているわけで、小学生たちは「インディアンとカーボーイごっこ」の代わりに「警察と黄色いベストごっこ」をしているというニュースもあった。そして中学レベルでは、みんなが真剣に、黄色いベスト運動と暴力との関係についてなど話しあっているのだそうだ。で、リセはというと、フランスのリセは伝統的に、その後のストやデモなどの市民活動を学ぶ場所でもあるので、全国で200余りのリセにバリケードが築かれて封鎖されているという。

そんな中で、最低賃金ではない余裕のある中流の共稼ぎ家庭の女性と、メディアの人気パーソナリティである富裕層の意見が興味深かった。

女性は、50代初めでまだ子供二人が独立していない。これまでは、自分の気に入った仕事をしてきて、「生活のために働く」という意識はなく「やりがい」「自己実現」のために働いていると思っていた。けれども最近健康上の重大な問題が起きて、職を失いそうになっている。で、パニック。
夫の収入しかなくなれば、「自己実現」どころか、子供の教育費のことも心配になる。「生活のために働く」ことが必要になる。それまで、最低賃金で月末の収支に苦しんでいる人々のことを考えたことがなかったけれど自分も実は紙一重のところにいた。黄色いベスト運動に共感する。

富裕層は、シリル・アヌナ。1969年にチュニジアから移住したユダヤ人家庭出身で1974年にパリで生まれる。父は医師で母は高級ブティックを経営。で、本人も医師の道を目指すことを期待されていたが役者になる。歌手、俳優、コメディアン、シナリオ作家、テレビやラジオのアニメーター、パーソナリティとして有名で勢いもありとても人気のある人だ。

で、この人が、先週来、自分の番組に「黄色いベスト」運動の人たちを招いて話を聞いているうちに、具体的に何かをするべきだと思ったという。
私も、テレビのスタジオや首相官邸に招かれて苦境と怒りを訴える「黄色いベスト」を見るたびに、彼らの前にいるこの議員たちやテレビ局の人たちって、どんなに低姿勢でリスペクトを見せても、自分たちは最低賃金の10倍以上の給料をもらっているのだろうなー、などと思って違和感があった。テレビなら「黄色いベスト」の人たちに出演料をどれくらい払っているんだろうか、彼らはそれをどう分けるんだろうか、とか。

で、シリル・アヌナは、その昔やはりコメディアンのコリューシュが始めて今も続いている「心のレストラン」運動のように、富裕な人が現金を持ち寄って、月末に使える金がない、子供たちにも我慢させるというような「黄色いベスト」層の人たちに少なくともその月を超すことができるような金を手渡す、「心の銀行」を設立するつもりだと表明した。

「心のレストラン」はそれこそ「普通の人」が少しずつ寄付したり余った食料を持ち寄ったりして始まったけれど、「心の銀行」は現金だから、「富裕層」に呼びかけて協力してもらう、すでに共感してくれる仲間が現れた、とシリルは言っている。
もちろん彼らは稼ぎに対してすでに相応の税金を納めている。それでも、贅沢な生活をして資産もあって将来も安泰で、なお余裕がある。今、毎日、生活が苦しいという人たちが「黄色いベスト」をつけて名乗りを上げているのだから、個別の彼らにすぐに助けの手を差し伸べたい、というのだ。もちろん「不正受給」をチェックするためのシステムは最低限作るけれども、「最低賃金で働いている人が暮らせない」状況をすぐに、具体的に、少しでも助けるべきなのがコリューシュの「心のレストラン」に共感し尊敬する自分にひらめいた考えだ、と言う。

すなおにいいなあと思った。
大金が手に入るとすぐに節税やら脱税やら私利私欲や友達優先を考えるような多くの人の他に、具体的に、今、自分のいる国の中で困っている人に、「足らない分」を援助しよう、食べ物ではなくて、その人たちがそれぞれの「足らない」ものに使えるように、現金を提供しよう、と考える人がいるのだ。

私などはこの二つの層の中間でしかなく、月末に苦しくなるような状況にはまず縁がないけれど、ひょっとして長くなる老後のリスクに備える以上の余裕はあるはずもなく、多少の寄付やボランティアをしている程度だ。
それでも、今の時代に生きているおかげで通信環境はあるし、暑さ寒さも屋内ではしのげるし、衛生環境もいいし、好きなものを好きな時に食べられるし、「最低賃金」の人たちどころか、ある意味では100年前の大金持ちよりも200年前の王侯貴族たちより快適な恵まれた環境で暮らせている。
もちろん税金もそれなりに払っている。

けれども、知り合いではなく、「今困っている事情をたまたま知った特定の人に現金を続けて支給する」ような経済状態にはない。

でも、仮にそんな余裕があったとして、この「黄色いベスト」運動を見て、私がシリルのような発想に至ったかどうかは疑わしい。

「私にもしありあまる大金があったなら」などという妄想の中でいつも思いつくのは、どこかにお城を買って、アーティストたちを集め、サロンやコンサートホールを作り、音楽家の研修、フランスバロックの音楽学とダンスの研究などの施設を運営する財団を創りたい、というものばかりだ。

「黄色いベス」運動の人たちは、これまでの路上生活者やメトロの中の「物乞い」、移民や移民の子弟の「ゲットー」、難民キャンプの人々などという、ある意味「カテゴリー化」されて、分かりやすくはあるけれどそれこそ、一人一人のヒストリーが見えないので、その「原因」の究明や解決が難しいと思わせるタイプの人たちではない。

30年前までは、地方の町で私の隣人だったような人たちだ。
どの話も身につまされる。

彼らがマニフェストしてくれたことに感謝する。



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by mariastella | 2018-12-08 18:28 | フランス

国連安保常任理事会とフランス マクロンの憂鬱

国連の安保理事会の常任理事国と言えば、ソ連や中華民国からロシアや中共に引き継がれたとはいえ、第二次世界大戦の戦勝国、いわゆる「連合国」である米英仏中露の5ヶ国だ。


このうちフランスは大戦中はやばやとドイツと停戦して一部占領を許したことで初期の「戦禍」を少なくしたのだけれど、ドゴール将軍の率いる自由フランスが米英軍らと共に戦いノルマンディ上陸作戦にも加わり、みごと、「戦勝国」側につくという離れ業を見せた。


そして戦後はドイツともいち早く石炭鉄鋼共同体で和解と強調の道を開き、ヨーロッパ経済連合を経て今日のEUヨーロッパ連合の立役者となった。ヨーロッパでの戦争をもう二度としないという決意と共に、フランスだけでは立ち向かえないアメリカや日本に経済的に対抗するために、「ヨーロッパ」という「拡大フランス」の衣をまとったのだ。


けれどもその思惑は少しずつ外れていく。

ヨーロッパ内で「政治の巨人フランス」「経済の巨人ドイツ」と言われて「棲み分け」ていたのに、冷戦後に、経済力のない東欧諸国受け入れによるEUの拡大がさまざまな問題を生み、逆に、東西統一を果たして経済的にも政治的にも大きな力を持つに至ったドイツが、経済規準でしかものを見なくなった世界から「EUの顔」と認知されるようになったからだ。


で、1128 日、ドイツの副首相オーラフ・ショルツが、フランスに、国連の常任理事国の地位を辞退して、「EU」にその地位を譲るべきだと提案した。

EU大統領(欧州理事会議長)」はこれまでも、各国首脳が集まるところでは「もう一つの国」のように

扱われている。国連でもバチカンと同じくオブザーバーの資格がある。


とはいえフランスは、近代革命を遂げた普遍主義共和国として、経済的にはEUという虎の威を借る狐としてうまくリーダーシップをとってきたのに、こうはっきり言われたのにはあせっただろう。


その背景にイギリスのBrexitがあるのは間違いない。もしイギリスがEUに留まるのなら、ドイツが、イギリスとフランスの両方に「常任理事を辞退してEUに譲れ」などとは発想できなかったろう。

で、米英中露プラスEU


もちろんこれに「ああそれもそうですね」などとフランスが答えるわけがない。

フランスが翌29日に提案したのは、常任理事国の拡大だ。

ドイツ、日本、ブラジル、インド、アフリカから2ヶ国を迎え入れればいいというのだ。

とはいえ、内部分裂を起こしているEUが今の段階で常任理事国としての機能を果たせるとは思えないし、実はもう十年くらい前から、英仏はドイツ、日本、ブラジル、インドの常任理事国入りに肯定的だった。

けれども日本の参加に中国が反対しているように、今の国連のさまざまな決議のシステムを変えるのはたやすくない。

これにまつわる言説をこれから誰がどのように発するのか注目していきたい。


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by mariastella | 2018-12-07 00:05 | フランス

「黄色いベスト」の暴動とマクロン

近頃、週末になる度に、「黄色いベスト」デモと警察、CRS(機動隊のようなもの)との衝突やさまざまな問題ばかり報道される。年末年始仕様にイルミネーションされたばかりのシャンゼリゼも大被害を被り、次の週にシャンゼリゼへの警戒網を敷いたら今度は凱旋門から放射状に広がる大通りをねらって無許可のグループが集まり、お決まりの「破壊者」というか、デモになるとほぼ必ず現れる暴力集団が、投石し、車や建物に火を放ち、店を襲って略奪する様子を見せられるのはもううんざりだ。

それに煽られて、普通の参加者で「全て破壊したい」と自暴自棄になった人たちも多く加わっている。その場で暴徒と化した人たちだからイスラミストによるテロ準備と違って、諜報部門も、事前のチェックができない。

また、今の時代、警察や機動隊が少し手荒なことをすると、必ず誰かがスマホで撮影して後からスキャンダルになるので、とにかく怪我人を出さないということで取り締まり側は慎重だ。警察官も、低賃金で過酷な仕事をしている人も多いから「黄色いベスト」の「草の根」の運動に共感を示す人も多かった。む

けれども事実上、放水と催涙ガスしか「武器」がないので、防毒マスクをして防水服をつけている「暴徒」には「効かない」し、暴徒の側は火焔ビンを投げたり鉄の棒やハンマーを持ち、殺意を露にする者すらいる。疲労困憊している警察が気の毒だ。「緊急事態宣言をして軍隊に助けてもらいたい」と言う声もある。


2000年代の中頃、大都市郊外のシテと呼ばれる低家賃大規模住宅群がゲットー化して移民の子弟を中心に若者たちが「暴動」を起こした事件があった。アメリカのFOXニュースなどではフランス中に「火の手」が上がったかのように報道し、フランスは「内戦」状態だという印象を与えたので、私まで、日本の人から心配されるということがあった。実際は、当然一部の地域だけで、若者たちは、インターネットで事件が広がることを目指して戦略的に派手な車の放火などを続けていたようだ。

ところが今回は、当初デモ隊がマクロン辞任を叫んでエリゼ宮に向かったこともあって、パリの中心が狙われた。クリスマス商戦真っただ中でデコレーションも美しいシャンゼリゼ、リボリ、オペラ界隈、凱旋門からトロカデロ界隈と、「テロが落ち着いて観光客が戻って来た」とほくほくしているパリが大きな打撃を受けた。

正直言って、ゲットー化した郊外で火の手が上がるよりも、特定の場所で自爆テロを受けるよりも、経済的にも外交的にもはるかに重大だろう。68年の5月革命以来のダメージだという人もいるが、学生の数働き少なく、最低賃金で働きながら週末にだけデモに加わる人もいる。社会の伝統やメンタリティを変えてしまうような運動ではない。

「黄色いベスト」デモは、政党や労働組合とは関係なく、車に備え付けられている「蛍光色の黄色いベスト」を身に着けることでだれでも集まることができるというSNS時代ならではの発祥だった。車の燃費増税に苦しむ人ならだれでも持っている「ベスト」によってスローガンを表明できることがこれまで「普通の暮らし」をしている人の参加のハードルを低くした。

問題は、だから、「代表者」「指導者」という存在がはっきりせず、政府との「話し合い」が困難なことだ。

運動が過激化してからは、首相官邸に赴く「黄色いベスト」のメンバーに内部から「裏切者」と殺害予告が送られたことでキャンセルする事態さえ起こっている。


最初は燃料費への課税への反発から始まった。フランスはエコロジー政策の主導というポジションをとっているので、空気を汚染するディーゼル車をエコカーに買い替えるよう税による圧力をかけていたのだけれど、車でしか働きに行けないような地方に住んでいる人々は、買い替えの予算もないし、燃費が上がると生活が苦しくなるばかりだ。

で、その後、プロフィールとしては、地方に代々住んでいるような「普通のフランス人」が、過去の「中流」から「貧困層」に落下したという人たちだ。失業者でなく代々の職業を持っている人でも、収入が減って暮らしがやっていけなくなる。それなのにここ30年、国はそれを黙って見過ごし、富裕層がさらに富裕になるのを助けているだけだ、という不満が爆発した。

だから一年半前に政権の座に就いたマクロンだけのせいではないのだけれど、マクロンは、それまでの伝統的な保守か革新の政党政治ではなく、保守も革新も中道も集めて「新しい政治」をする、改革する、と公約して当選した。けれども「改革」はまず、フランスの経済力を高めること、景気を高めること、スタートアップを応援することなど、「アメリカに負けない」ネオリベ資本主義に利する「改革」から手をつけたので、「庶民」「民衆」の失望が大きかったというわけだ。


もちろんこれはフランスだけの問題ではない。


「ここ30年、歴代の政府から見捨てられてきた」と人々が言うのはこういうことだ。

30年前というのは、社会党のミッテラン大統領による左派政権の一期目が終わった時だ。

その後、ミッテラン下でも首相は保守という「ねじれ政権」が始まった。

そしてそれは、「冷戦の終結」とも軌を一にする。

冷戦の間は、フランス共産党も健在だったし、自由陣営も、労働者を怒らせてはいけない、社会主義的(つまり国が富を分配する)政策を打ち出しておかないと、革命が起きたら大変だ、という抑制が働いていた。

けれども、冷戦の終結によって、「国家が生産手段を国有化するような共産主義は全体主義であり社会の繁栄ももたらさなかった」という認識ができたことで、後はもう、歯止めのない弱肉強食の「自由競争」がスタートしたのだ。それまで「庶民」を守っていた「規制」が次々と消えていった。だから、都市と地方の経済格差も大きくなり、資本を持たない中間層はどんどん「搾取」されていくようになった。

で、なぜ、フランスのような、「腐っても鯛」の近代革命によって生まれた共和国で伝統的な社会民主主義政策をとってきた国が、地方の小市民、庶民の生活レベルが落ちて苦しむことにもっと早く対応しなかったのだろうか。


それは、まさに、移民、移民二世、三世の失業率の高さ、住居のゲットー化、無法地帯となり麻薬のディーラーが横行し、という状態への対応が優先的な問題になってきたからだ。でも、ある意味で、ゲットー化したシテの内部は、「無法地帯」になってはいたけれど、「ヤクザは素人に迷惑をかけない」みたいなことと同じで、彼らが大挙してシャンゼリゼに繰り出して破壊行為に走るなどということはない。

でも、フランスで生まれた者はみなフランス国籍がもらえて、「共和国人民」として「自由・平等・同胞愛」を享受するべきだというフランスの「建前」からすると、ゲットー化や共同体主義を放置することはできない。逆差別も含めた様々な統合政策が試行錯誤されてきた。

そこにイスラムの問題が加わる。「政教分離」を国是としてきたフランスで、ムスリムの共同体や、ムスリムのアイデンティティを利用した他国からの影響を野放しにはできない。


さらに、アフリカや中東情勢の悪化から難民が押し寄せるという情況、また欧州連合の拡大と国教廃止によって経済格差のある元共産圏の東欧からの出稼ぎ労働者が膨大な数となったことも、「地方で生活レベルが下がっていく」庶民の声に政府が耳を傾けて対応などしている暇がないという現実を生んだ。


もっと大変なのは、テロリズムの脅威だった。

パリでテロが起き、緊急事態が宣言され、観光客の足が遠のく。それを何とかするために軍隊を動員して非常警戒が繰り広げられ、ようやく、「テロの脅威はアンダーコントロールだもんね」という触れ込みで2024年のオリンピックを招聘した。

どこかの国の「自分ちファースト」などと違ってフランスは「地球という惑星の未来を考える《意識高い系》」だもんね」というポーズもある。地方の庶民と車の関係などに思いは行かない。


フランスが、時代の波に取り残されないように、こんなにいろいろあくせくやっているうちに、代々普通に暮らしていけていたはずの「地方の庶民」は、グローバル経済の効率主義のせいで、地元の駅も病院も個人商店も消えていき、職を失ったり低賃金でぎりぎりの暮らしへと追い込まれていったのだ。

政府が目に見えるマイノリティ、ロビー活動ができるマイノリティ、外交問題にもなるマイノリティらの対応に追われているうちに、「目に見えないマジョリティ」の窮乏が進化してきたということだ。

イギリスがBrexitに追い込まれ、イタリアで五つ星運動が極右連立政権の座についたりしたのも、同じ流れだ。今回のフランスの「黄色いベスト」運動の激化が結果としてどの政党に利用されるのかはまだ分からない。


「生産性」第一の新自由主義経済の規制緩和によって庶民や地方が「下流化」して苦しむのは日本だって同じことだ。けれども、フランスに比べると、日本には移民や移民の子弟の住まいのゲットー化だの、それがイスラムという宗教と結びついている困難だの、アフリカや中東に近く難民が押し寄せる対応だの、テロの確率がマキシマムだのという問題のほとんどは存在しないか脅威の程度はずっと低い。

パリになくて東京にある大きな脅威は大地震で、その対策は大変だけれど、日本ではそれでも「災害の後の暴動」の確率は少なく程度も軽い。そして、「生き難い」人はたくさんいるだろうに、怒りの発火点が高すぎるような気がする。低所得者が生活保護家庭の人と連帯して反政府デモを申請して、世論の75%から支持されるなど想像もできない。ましてや表参道や銀座の高級店やら銀行が「暴徒に襲われる」のも想像できない。


それにしても、68年以来と言われるパリの中心地の破壊を見ると胸が痛む。

セネカは「怒り」を雪崩に例えた。雪崩はその勢いですべてを押しつぶして破壊するけれどその上で自分たちも総崩れになるのだ、と。「自爆テロ」と変わらない。「怒り」を暴力で翻訳してはいけない。そんなこと、2000年も前からセネカが言っていたのに。


ともかく、凱旋門が襲われて数々の歴史的な記念物が破壊された惨状をTVで見るにつけ、過去に「暴動」があったとされる「郊外」の移民の子弟の町がとても静かなのにも驚く。ムスリムの経営するお店も中国製のクリスマスデコーションを売り出しているし、パリの有名デパートから人々が退去させられた日に、移民の多い郊外のショッピングモールには買い物客がなごやかにそぞろ歩いている。

で、フランス国内のテンションが高まった週に、リオでのG20に出席していたマクロンには、また別の衝撃的な難問がふりかかった。(続く)


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by mariastella | 2018-12-06 00:05 | フランス

ティム・クックと自由市場 

アップルのCEOのティム・クックが11/18のインタビューでこう言っていたのを揶揄するフランス語の記事をたまたま目にした。

この部分だ。

“Generallyspeaking, I am not a big fan of regulation. I’m a big believer in the freemarket.

この「believe in」というのはもちろん「神を信じる」という表現と同じだ。

つまり、自由市場を信奉している、信仰しているというのだ。「規制」の大ファンではないけれど市場主義のファンだ、というのではなく、規制の大ファンではないけれど自由市場の「大信者」だと言っている。

(たとえ)それが機能していなくても..と続くのだけれど、そして、それも突っ込みどころ満載なのだけれど、ともかく、ほーらね、やっぱり市場経済至上主義は「経済」ではなくて「宗教」なんだ、という話だ。

これが日本人の口から「信じております」「絶大な信頼を寄せています」と言うなら、スルーできるけれど、何しろアメリカのような国でリーダー的な人は政界でもみんな財界でもみんなキリスト教的含意まみれの言葉を使っている。神への信仰、神の助け、神のご加護などの言葉のない大統領就任演説もない。

そのティム・クックは2年ほど前にMITの卒業生に贈るスピーチで、こんなことを言っている。

>>>どうすれば、私も人のために尽くすことができるだろうか。これこそ、人生において何よりも大切で、最も大きな問いです。

自分より偉大な何かを目指して努力していれば、生きる意味、目的を見つけることができる。だからみなさんにも、「どうすれば人のために尽くすことができるか?」という問いを抱いてほしいと思います。<<<

そういえばアップルのスティーブ・ジョブズもスタンフォードでの卒業式スピーチで感動を集めたし、クックも、ジョブズの人生観に感銘してアップルに入ったのだそうだ。

うーん、『神と金と革命がつくった世界史』でも書いたけれど、最初に理念があっても、いったん組織ができて収支を伴う動きに入れば、経済活動はいつのまにか「カネ」の論理、生産性の論理に従ってどんどん動いていく。

で、みんな、もう理念や建前なしのあからさまなカネという偶像崇拝に向かうのかと思えば、アメリカのような「神の国」で成功する人たちは、キリスト教の理念を口にすることは続けているわけだ。

それを耳にするエリート卒業生たちの中には、サンダースらの社会民主主義に積極的に与する者も出てくるかもしれないし、ビル・ゲイツのように早めにリタイアした後で本格的に人道活動に向かう人も出てくるかもしれない。

それでも、そういう「宗教的確信」の言葉が、ネオリベ信奉についても利他主義についても、全方向に簡単に発せられるアメリカというのは今さらながら不思議でもある。

フランスのエリートはこういう言い方を避けるように「共和国主義」を叩きこまれているので、一応「言葉の棲み分け」はある。だから、公人のスピーチにおける宗教的含意や失言についてもセンシブルだ。ティム・クックも揶揄される。

フランスとアメリカを比べるのはある意味で分かりやすいのだけれど、それに比べると、日本の公人の発する言葉の失言だの揚げ足取りだのに関する話題の浅薄さについては、どう考えていいのか、分からない。


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by mariastella | 2018-11-28 02:06 | 雑感

イランは復活するか

アメリカに住むイランのパーレビ国王(パフラヴィ―朝のシャー)系のプリンスが、アメリカの各地から現イスラム共和国の反体制派の諸派の代表者を集めてペルシャ語で話し合ったビデオがフランスにいる亡命中のイラン人の間にも拡散されている。


その中でプリンスは自分が反体制諸派のリーダーとなるのではなく触媒となって、イスラム共和国を倒して政教分離の民主体制に切り替える考えを披露しているという。

パーレビ国王時代の独裁に戻るのでなく自分が王になるのでもなく、民主的な手続きで、イラン国民がどんな形態の何を望んでいるかの声を聞くこと、

イスラム革命とイスラム共和国下の軍人に対しては、ホメイニらの命令に服しただけの者にはその罪、責任は問わない、上位の責任者についても適正な裁判によって処置を決める事になるので、いかなる報復もしない、ということだ。

ホメイニ革命から40年、反体制の新しい世代は新しい世界観を持っている。

彼らの動きを見ていると、今のトランプ大統領による無茶ともいえる経済制裁が、過去に冷戦下の社会主義国を自壊させた経緯に結びつかないとも限らないのだろうか、と一抹の希望もわいてくる。

「腐っても鯛」のアメリカ民主主義の洗礼を受けている若い世代による内側からの反体制諸派がまとまって動くなら、意外に早い時期にイランのイスラム共和国が終焉し、そうなると、石油をはじめ、豊かな資源を有するイランには新しい繁栄とイスラム世界の平和をもたらす力がある、と革命で亡命した世代が話してくれた。

SNSのおかげで、プリンスの言葉と約束は広まっている。

アラブ族とは言語的にもまったく異なるイランが復活新生して、アメリカやロシアや中国ともバランスの取れた関係を築くことになれば、世界平和にも大いに貢献しそうで期待が高まる。


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by mariastella | 2018-11-17 00:05 | 時事

第一次大戦戦没者追悼式典

11/11にフランスで開催された第一次世界大戦戦没者追悼の終戦記念式典は、このところ国内的には強権的な政策が批判されっぱなしのマクロンが得意の外交で存在感を示す機会となった。特に、ヨーロッパの戦争に駆り出されたアフリカ大陸の戦没者の復権が進んでいるのがよく分かる70ヶ国首脳の出席した式典になった。

けれども、たとえば戦没者も多かったハンガリーは、今のナショナリズムの台頭を反映して、トップはもちろん代理も出していない。

全員をエリゼ宮から凱旋門まで運ぶバスが連なったが、トランプとプーチンとネタニヤウの三者はセキュリティを信用せずに別々に裏側から来るなど、今の微妙な空気も反映されている。

「戦勝四大国」だったはずの米仏英伊のうちのイギリスとイタリアが背を向けたのも、イタリアのポピュリズム、イギリスのBrexitを反映していて、エゴを超えて平和をというEU理念の危機を反映している。

イタリアが第二次大戦では枢軸国側に寝返ったことも関係しているのだろうか。日本も?

日本もイタリアもヴェルサイユ条約前のパリ会議には不満で途中で退席したことがある。

でも、終戦の翌年1919年の最初の714日、フランス革命記念日の軍事パレードには、戦勝国すべ手の軍隊が亢進して、その中で日本軍が行進した時には盛大な歓呼があったという。そういえばそのパレードではヴェルダン戦の英雄であったペタンも白馬にのって堂々と行進した。そのペタンが新独政権となり第二次大戦後には「犯罪人」となったのだから、21世紀の第一次大戦の記念式典といっても、その後の歴史の展開なしには語れない。

それでもマクロンはトランプらの批判をこめた演説をしていた。

トランプに批判的なCNNの特別インタビューに出演して英語でうまく答えるのもマクロンならではだ。

ここのところずっとサミットから拒否されていたプーチンが各国首脳と並ぶだけでもシンボリックな意味はある。

政治的な効果はなくても、第一次大戦の愚かさと悲劇を強調するだけでも「教訓」的な意味はある。

米露二者の会談を避けて、エリゼ宮での昼食でトランプとプーチンをマクロンと同じテーブルで向かい合わせて話し合わせた、という演出も、本質は変わらなくても、平和と話し合いという建前を維持したことは評価できる。

けれども、このエリゼ宮にも、両者は別々に現れて、式典と同様、両者とも遅れてきて、プーチンはトランプよりも遅れてくるというやり方を通した。

その後の「平和フォーラム」(13日まで続く)も、トランプは欠席、プーチンはほんの形だけという出席だった。まあ、トランプは2015年のパリの環境会議からも離脱したのだから、出席するはずもない。それでもマクロンが過去の戦争を想起して平和を維持するのは我々の肩にかかっていると訴えるのは意味がある。

それでも、目玉である凱旋門の追悼セレモニーとは、結局はフランスの「軍事」セレモニーであり、マクロンが軍の閲兵をしてまわるのだから、彼がアメリカからも守るためにヨーロッパ軍の設立が必要だとか言って、「侮辱的だ」とトランプがツィートしたように、所詮は「武力による平和」の愚かさから世界は抜け出ていない。

あいにくの雨で、みな傘をさして歩いていたのに、前列で一人傘なしで更新したカナダのトルドー首相は「カッコいい」としかいいようがない。当時イギリスも実質的な植民地だったカナダも大きな犠牲を払った。何よりも、第一次大戦後、国内で膨大な数の孤児たちが「不良化」して困ったイギリスが、彼らをまとめて

カナダ西部に大量に送り込んで「安い労働力」を提供した過去がある。今のカナダ人の10人に1人はこの時の移民というか植民の子孫だという。

音楽のパフォーマンスではまずアメリカ国籍のヨーヨーマ―がバッハの無伴奏第5番のサラバンド。ドイツの曲でいいのか ?に答えるように次はフランスのラヴェルのピアノとヴァイオリンのソナタの二楽章(ピアノのパートをチェロが弾いた)で、ヴァイオリニストはマクロンと同世代で今を時めくフランスのルノー・カプュソンというバランス。そして、アフリカを中心とした植民地軍の戦死者を考慮してトーゴの歌で締めくくった。

1918年当時の兵士や兵士の婚約者やらが書いた手紙をリセアンたちが朗読したのは、フランス語、中国語、英語、ドイツ語というバランスだった。

夜には終戦後のフランスの様子のドキュメンタリーをTVで見たが、北フランスやアルザスなどの完膚なきまでの崩壊ぶりに衝撃を受けた。近頃こういう映像を目にするのはシリアやイラクの町で、アレッポなどに広がる瓦礫がショッキングだったけれど、100年前のヨーロッパはある意味でもっと悲惨だ。

膨大な数の砲弾によって、顔や体の一部が吹き飛ばされた傷痍者が多すぎる。

第二次大戦の核兵器による被爆地の跡の荒廃や被爆者の姿もこの世の地獄のようだけれど、まさに「この世のものとは思われない」非現実感もある。

でも、ある意味で中途半端に個別に撃たれたり爆破されたりして生き延びた人々の損傷というのは、個人的、社会的トラウマ、ルサンチマンが強烈だ。「 « gueules cassées »壊れ面(づら)」という名がつけられて数々の映画のテーマにもなった顔面損傷者が大量に生まれた。

ヴェルサイユ条約でのフランスのクレマンソーの懲罰感情(彼はすでに77歳で、普仏戦争以来の対独復讐感情を引きずっていたのだろう)、民族自決の希望を掲げてやって来た62歳のアメリカ大統領ウィルソンが自国では黒人差別を維持したことも含めて、第二次大戦に向けて起こったことを棚上げして第一次大戦の反省からひととびに今の世界の平和構築の檄をとばすことの限界も、あらためて考えさせられる。


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by mariastella | 2018-11-13 00:05 | フランス



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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